第61章 立場※
「手紙には、”この薬”が十秒で効き始め、三十五秒で完治に至ったと書きました。水の入った瓶と、この手紙を読まれた所で、何のことだか分からないでしょう。瓶は煮沸消毒した後に、温泉の湯を入れてから乾かしました。ごく微量の硫黄と、塩分が残っている程度です。湯が沸いている範囲も広大なため、此処が割れる可能性も低いです」
「頭が良いな」
冨岡は、非常に頭の悪い褒め言葉を口にした。火憐はクスリと笑い、タイプライターを丁寧に片付けると、冨岡に近付いて、肩に寄り掛かった。
「お風呂に入ったら、彼がいたんです。湯気で見えなくて。⋯⋯でも、あの子は子供ですから。私は年上が好きです。柱である事を気にせず、少し意地悪をして来る様な人が」
「何処でそんな誘い方を覚えた」
冨岡は少し不機嫌そうに火憐の痣に触れた。もう、彼女は怖がる素振りを見せなかった。そのまま胸に触れてやると、火憐は頬を赤らめた。表情は変えなかったが、確実に感じている。
「倒れるまで、抱くぞ」
冨岡は宣言すると、衣服の上から火憐の身体をなぞった。
「ん⋯⋯」
「お前、この隊服⋯⋯裾が短くなっていないか?」
「なっていますね。動きやすいので気にしていませんが」
「気にしろ、阿呆。目のやり場に困るだろう」
「だったら、靴下を贈ってください。甘露寺さんは、伊黒さんに貰ったって言っていました」
「自分の俸給で買えるだろう。そもそも、お前は、もっと給料を要求しろ」
「貴方から貰いたいんです。そうすれば⋯⋯傷を付けない様に⋯⋯っ⋯⋯大切に出来ま⋯⋯あっ⋯⋯」
触れているだけだというのに、火憐は身を捩って涙を一筋零した。
「冨岡さんっ!」
「頭が良いのか、悪いのか、分からん奴だな。俺の名前をまだ覚えられないらしい」
冨岡は腹いせに火憐の耳を口に含んだ。敢えて水音を立てて舌を這わせると、彼女はギュッと冨岡の隊服を掴んだ。
「義勇⋯⋯さんっ! それ⋯⋯駄目! 駄目っ!!」
火憐の身体がビクリと跳ねた。
「もう達したのか。堪え性のない奴だ。良く柱になれたものだ」
言葉で嬲ってやるだけで、火憐は呼吸を荒げた。