第61章 立場※
──君と話をしている内に、私は自分の中に複雑な感情が存在している事に気が付いた。鬼舞辻無惨を倒す為だけの存在だと思っていた私を、君は一人の人間として、その身を懸けて助けようとしてくれた。既に代わりのいる私を、尊い人間の様に扱ってくれた。君と同じ、対等な人間として。私の人生を、後の世代の踏み台では無く、意味のある物にしてくれた。
──君が自分の身体を犠牲にしてまで戦う姿勢や、他の柱たちとの交流を見て、私は決心した。なんとしても、産屋敷家は私が守り、君には刀を振って貰うべきだ、と。
──信じて欲しい。私は君が義勇と共に生き延び、誰よりも幸せに生きて欲しいと願っている。鬼殺隊の頭として、相応しくない考えかもしれない。けれど、私の中で、君の命や幸せは、他の隊士と同じ重さではないんだ。
──私に星空を見せてくれたこと。子供達の姿を見せてくれたこと。君は幾つもの奇跡を起こし、もう少し生きていたいという浅はかな願いを、私に抱かせてくれた。
──友人として、心から愛している。支えてあげられなくて、ごめんね。乗り越えて、幸せになって欲しい。私の分も生きて欲しい。
「やはり、お館様は、最初から私の事をご存知だったのですね」
火憐は俯いた。産屋敷と対面するまでは信じられなかったが、いざ言葉を交わしてからは、彼が隊士全員の名前を覚えているという話を信じられた。
だからこそ、自分の階級が何時迄も放置されていた事が気掛かりだったのだ。
「知っていて⋯⋯私を死なせない様にしていた⋯⋯。貴方も⋯⋯」
「宇那手」
冨岡は火憐を抱き締めた。
「俺は、傍に置く事で、お前を死なせてはならないと考えていた。間違っていた。傍に置かなければ、こんなに弱ってしまう。⋯⋯まさか、恋情を抱くとは思っていなかったが。最初に会った時には、十五の娘だった。器量の良い娘だとは思ったが、流石に⋯⋯」
当時十八だった冨岡が、十五の娘の心の隙に付け入る様な真似をするのは、憚られたのだ。そうして迷っている内に、彼女は行方を晦ましてしまったわけだが。
「まだ、子供に見えますか?」
そう言って、首筋に指を這わせて来た女は、到底子供には見えなかった。
濡れて艶の増した髪も、潤んだ瞳も、大人の女の物だった。