第61章 立場※
「期待しています」
火憐は、そう言うと、今度こそ風呂を上がった。
急いで着替えを済ませ、借りていた部屋に戻ると、予想外の人物が居座っていて、腰を抜かした。
「冨岡さん⋯⋯」
「俺は幽霊か。早くこっちに来い」
冨岡はやや不機嫌そうに火憐を招き、自分の膝の上に抱き上げた。
「眠れていないと聞いた。大丈夫か?」
「大丈夫です。夜中に何度も目を覚ましますが、睡眠時間は足りています。冨岡さん──」
「名前を呼べ」
「でも、桜里さんが──」
「今晩は別の部屋へ移った」
「義勇さん、任務は?」
「全て終えた。今晩は側にいる」
「嬉しいです」
火憐は、冨岡の胸に寄り掛かった。
「お会い出来るまで、一週間は掛かると思っていました」
「お館様が心配している。手紙を預かって来た」
冨岡は長い手紙を火憐に差し出した。あまねが代筆した物だ。彼女は冨岡にも読める様に広げた。
──宇那手、言葉を発せる内に、君に伝えたかった。私を恨んでいるだろう。私は、君の家が襲撃された時から、生き残った女の子の事を知っていた。君が隊士になってしまった事も。
──長い間階級を据え置いていたのも、君が私たち一族の代わりになり得るからと、考えていたからだ。万一産屋敷家が途絶えた時に、代わりを務めて欲しかった。
──君が義勇を探している事も、知っていた。義勇も君の名前を覚えていたよ。だけど、頑なに会おうとはしてくれなかった。
──下弦の鬼を倒した隊士たちからも、何度も何度も君の名前を聞いた。君は早々に現場を立ち去っており、手柄を横取りする事も可能な状況で、誰一人嘘を吐かなかった。自分たちを救い、鬼を討ったのは、少女だった、と。
──下弦の鬼を二体倒した後、突然義勇が君を継子にしたいと言って来た時には、本当に驚いた。もうこれ以上、君との対話を先延ばしには出来ないと思った。
──柱合会議では、誰も君の存在に異を唱えなかった。あんな事は初めてだった。どれほど実績があったとしても、様々な理由により小言を言われる者が殆どの中、君は全ての子供達に、あの場で受け入れられた。