第61章 立場※
(ああ⋯⋯こりゃ、人間じゃない。兄貴が惚れたのも分かる⋯⋯)
「肋骨だけで無く、足も痛めていますね。あまり温めない方が良いです。冷やした方が良い捻り方ですね。胡蝶さんから塗り薬は貰っていますか?」
「い⋯⋯いいえ。塗り薬は傷んでしまうからと⋯⋯」
「まあ、私がいる事を想定しての判断でしょう」
火憐は溜息を吐いて、肩まで湯船に浸かり、微笑んだ。
「後で色々と部屋まで届けますね。ですが、貴方が一番気にしているであろう事をお伝えします。実弥さんは、優しい人です。貴方がもし、お兄さんの立場なら、どう思いますか? 命懸けで守った弟が、その身を危険に晒していると知ったら」
「あ⋯⋯」
「私も最初は分かりませんでした。人の言葉の裏側にある思いを汲み取れず、額面通りに受け取り、人を怒らせてしまった事があります。里でゆっくり過ごす間に、考えてみてくださいね」
火憐は立ち上がり、くるりと背を向けた。玄弥は慌てて目を逸らした。
「あの!!」
「何か?」
火憐は振り返った。玄弥は意を決して、彼女を真っ直ぐ見据えた。
「俺は柱になれますか?! 呼吸が使えない剣士でも!!」
「なれます」
火憐は即答した。彼女は少し考え、湯冷めをしない様に肩まで浸かった。
「貴方、誰かに狙撃訓練を受けましたか?」
「いいえ! 鬼殺隊士は、皆呼吸の使い手で、刀が武器です!!」
「では、私が指導します。⋯⋯時代は動いています。何れ刀は使われなくなる。国外では、既に銃が主流です。貴方は、未来の可能性を秘めた武器を使用している。胸を張って闘ってください。貴方の功績が、呼吸を扱えない鬼殺隊士の希望になるかもしれません」
(敵わないな⋯⋯)
玄弥は苦笑して俯いた。柱は強いだけではない。優しく、人を導く事が出来るのだ。少なくとも、悲鳴嶼、胡蝶、火憐は、そうだった。
今の玄弥には、全く余裕が無かった。討伐数も少ない。十二鬼月も倒していない。同期の三人は、既に下弦二体と、上弦の討伐に成功したと聞いた。焦りがあった。