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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第61章 立場※


 三日目に、火憐はようやく念願の温泉に浸かる事が出来た。日中では、他の職人に気を遣わせるからと、夜に入ったのだが、これが失敗だった。

 突風に湯気が飛ばされた瞬間、煙の向こう側に男の子がいる事に気が付いた。一目で、その子が誰であるか、理解した。

「玄弥君? 玄弥君ですね? 驚かせてごめんなさい」

「い⋯⋯いえ⋯⋯その⋯⋯あ⋯⋯」

 彼は赤面して、隅の方に逃げて行った。火憐も後ろを向いて、縁に腕を乗せて寄り掛かり、言葉を探した。彼もまた、胸の奥に悲しみを秘めている一人だ。

「実弥さんに良く似ていますね。すぐ分かりました」

「兄貴のこと、何か知っているんですか?!」

「文通をしていますから。元気にしていますよ」

「文通⋯⋯」

 玄弥は歯を食いしばって俯いた。彼も、兄に幾度と無く手紙を出したが、一通も返って来なかった。

 それから、彼は胡蝶の言葉を思い出した。

「すみません。俺の薬を作ってくださったそうですね。俺、知らなくて⋯⋯」

「此処でもすぐに処方出来ますから、不調があれば教えてください。⋯⋯どうやら肋骨を痛めている様ですが、それは鬼化してる間に再生してしまえば、人間に戻ってからも、維持されるのでしょうか?」

「ある程度は。でも、鬼の細胞で作った部分は治りません。回復力の速さを利用して治した物でないと」

「鬼の血液を少量持っています。鬼舞辻無惨の呪いは解除された物です。それから、人間に戻る為の試薬も。試してみますか?」

 火憐の言葉に、玄弥は心底驚いた。何故、彼女が鬼の血液を持っているのか。そして、それを飲む事に嫌悪を示さないのか。

 作成が不可能だと言われている、鬼を人間に戻す薬を持っているのか。

「貴女は⋯⋯何者ですか?」

「化け物だと思いますか?」

 火憐は、しっかりと手拭いで前を隠し、玄弥に近付いた。

「私は人間側に与する鬼との、連絡手段を持っています。薬学について学び始めてから数ヶ月。生まれ付き、人より少し頭が働くとしか、言い様がありません。人間です。ほら」

 彼女は手を伸ばして、玄弥の肩に触れた。彼は火憐の容姿を見て、縮み上がった。人間離れした美しさの持ち主だった。生身の人間というよりも、絵画や彫像に近い印象を受けた。
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