第60章 職人と剣士
「⋯⋯」
鋼鐵塚は、生まれて初めて、本当に言葉を失った。
これまで、担当をして来た剣士の事など、まともに見ていなかった。剣士は刀を使い、頻繁に折り、そして、いつの間にか死んで行く物だ。至高の一点を作成するまでの、通過点に過ぎない。しかし、火憐には、明確な目標がある。鬼舞辻無惨を抹殺するという。
それは即ち、刀が必要の無い時代を築く事に繋がる。鋼鐵塚が打つ刀は、この国最後の刀になるかも知れないのだ。そうなれなかった場合、火憐は死ぬ。折れた刀のせいで死ぬ事になる。
求められているのは、何時かの最高傑作では無く、今の最良だ。
「半月時間をくれ。その間に俺は鍛える。この命を賭けて打ってやる。それから、最初と同じ様に、鋼もお前が選べ。その刀で鬼の頭を殺せ」
「ありがとうございます。これで、私の件は片付きましたね。次に、竈門君の件なんですけれど──」
「打たねえよ!!!」
鋼鐵塚は態度を豹変させて怒鳴った。
「あいつの刀は二度と打たねえ! 死んでも打つものか!!!」
「でも、竈門君は義理堅い性格の様ですから、貴方を指名すると思います」
火憐は、静かな声で諭した。
「最初の刀が折れたのは、十二鬼月を相手にした時。あれは、間違いなく彼の力不足です。でも、二度目の紛失は、やむに止まれぬ事情があります。話だけでも聞いてください」
「刀を折った剣士は山程いたが、失くした剣士は奴が初めてだ!!」
「正確には、紛失とは少し違います」
火憐は胸に手を当てて、精神を鎮めた。