第60章 職人と剣士
「取り敢えず、落ち着いてください。お団子とお茶を持って来ましたから」
火憐は彼の隣に腰を下ろして、盆を置いた。
「少し休憩を取ってください。鉄珍様も心配しておられます」
「俺の刀は、剣士を殺してしまうかもしれない!! クソ!! やっぱり俺のせいなのか?! 刀が折れるのは俺のせいか?! そうなのか?!」
火憐は、言葉を失った。はいと言っても、いいえと言っても、鋼鐵塚は騒ぎ出すだろう。ノイローゼになりそうだ。
「まあ、今の貴方では打てそうにありませんし、時間もありますから。とにかく、お団子を食べてください」
「なんだ、そのクソ生意気な口の利き方は!! 貴様っ⋯⋯?! あの柱か!! すまない!!」
「いや、誰と話しているつもりだったんですか」
火憐は呆れを通り越して、笑ってしまった。
「とにかく、お団子、食べて一息吐いてください」
「お前、何処で聞いた?! みたらし団子は俺の好物だ!!」
「里の皆さんにお聞きしました。皆さん、心配していますよ」
幾ら心配していても、絶対に声を掛けなかったわけだが。火憐は、団子を食い出した鋼鐵塚を見て、深呼吸した。
「柱⋯⋯の命令は、貴方にも有効でしょうか? 落ち着いて話を聞いて欲しいです」
鋼鐵塚は、人生最大の我慢をして、沈黙を守った。火憐は慎重に言葉を続ける。
「私は現在筋力を鍛えています。皆が不可能だと言った限界を超えられる様に。少しずつ、強くなっています。前回打っていただいた刀より、三十グラム重くても動作に支障がありません。調整していただけますか?」
「何故里長を頼らない?」
「正直、銃の方は鉄珍様にお願いしようと考えています。今後の作戦に於いて、量産の必要もありますので。ですが、刀はなんとしても、貴方にお願いしたいのです。剣士と刀鍛治職人は、共に成長して行く物。それに、これまで私を生かして来たのは、貴方の刀です。他の方が打った物では、やはり勝手が違うと思います。例え軽量化と強度の維持を両立出来たとしても。だから、私は他の職人に頼むつもりはありません。先日、鉄珍様にも、その旨をハッキリ申し上げました。だから、貴方は出来る出来ないでは無く、やってください。貴方の腕を信頼しています」