第10章 不死川実弥
宇那手は、冨岡から貰い、藤の毒と椿油を染み込ませた簪を身に付け、胡蝶から貰った羽織を纏った。
簪は、それほど高価な物では無かったが、少し変わったとんぼ玉が使われている。空より青い、水の色だ。
「支度が整いました、義勇さん」
宇那手はそう言い、日輪刀を手にした。二人は行動の優先順位を決め、まず最初にお館様に会うことにしたのだ。
「髪を束ねますので、座ってください」
彼女はくしを手にして、半ば強引に冨岡を縁側に座らせた。
「自分で出来る」
「私が、やりたいんです」
宇那手は微笑み、そっとくしを通した。長い間、ろくに手入れもしていなかったせいで、しょっちゅう引っかかったが、宇那手は極力髪を痛めない様に気を付けた。
「折角整った顔立ちなのに、少し勿体無いですね。帰ったら毛先を整えましょう」
「疑問なのだが、俺は顔が良い部類なのか?」
冨岡の問いに、宇那手は、思わず声を漏らして笑ってしまった。本当に彼は、戦うこと以外の自分の能力について無関心なのだ。
「とても整った顔立ちをしています。柱の中で、太刀打ち出来るのは⋯⋯そうですね⋯⋯時透様だけです。冨岡さん、笑みを絶やさずにいてください。そうすれば、もっと沢山の人に愛されます」
「興味が無い。お前が不快に思わなければ、それで良い」
「ダメです!」
宇那手は、言うことを聞かない弟を叱りつける様に、冨岡の顔を覗き込んだ。
「柱との連携は、鬼舞辻を殺すのに必須です。単独行動は危ない。興味が無くても、努力してください!」
「⋯⋯」
冨岡は、すこぶる不機嫌そうに顔を背けた。しかし、宇那手は、少しも嫌な気持ちにならなかった。以前の彼なら、そういった負の感情ですら、絶対に宇那手に見せなかったのだから。
「ところで、冨岡さんは良いのですか? 私は貴方より歳下で⋯⋯まだ未熟です。ですが、成長期は過ぎていますので、これ以上身長は伸びません。やはり、妹役の方が良くありませんか?」