第9章 「愛している」
「確かに俺はその様に指導して来た。だが、お前には、もうその考えは必要ない。自分を許して、俺を責めろ」
「出来ませんよ。貴方の考えは正しいと、納得しています。立ち止まってしまったら、これまでの自分自身を否定することにもなります」
宇那手は、冨岡の頭に手を伸ばして、ろくに手入れされていない髪を撫でた。
「それに、恨みや、悲しみだけが原動力ではありません。貴方の”愛している”が、私の戦う力になっています。今日の言葉だけでは無く、これまでの貴方の気持ちも。⋯⋯分かっていましたよ」
「⋯⋯」
冨岡は宇那手の髪に手を伸ばし、紐を解いた。それは伸び過ぎてしまった髪を纏めたいから、取り敢えず何か貸してくれと言った彼女に、適当に渡した物だった。
「町へ入るぞ」
「はい。任務でしょうか?」
「簪が欲しいと言ったな? 用意する」
「でも──」
「俺がしてやれることは、そのくらいしかない」
冨岡は、そっと宇那手の手を引いて歩き出した。