第59章 伝達
既に意識を取り戻していた善逸は、それを読み、悲しげな表情を浮かべた。
── 獪岳と連絡はつきましたか?
──桑島さんに、弐ノ型以降の動作を習って来てください。そして、私に教えてください。私はしばらく身を隠します。訪ねる事で、桑島さんを危険に曝すわけにはいきません。
──師範として貴方に命じます。任務は無理の無い範囲で。手に負えないと判断したら、一旦退避し、すぐに鴉を送る様に。
──鍛錬は怠らないこと。雷の呼吸の使い手は、現状貴方しか頼れません。
──重要な話を、決して獪岳にしてはなりません。その理由をお伝えするか迷いましたが、貴方は知っておくべきです。
善逸は全身をガタガタ震わせた。怒りからくる震えなのか、恐怖なのか、最早分からなかった。
「⋯⋯嘘だろ⋯⋯。あいつ⋯⋯ 獪岳⋯⋯」
「大丈夫?」
カナヲが声を掛けたが、善逸は上の空だった。
──獪岳は孤児として、悲鳴嶼さんの寺で育った。夜道で鬼に襲われた時、同じ寺に住む家族⋯⋯子供達を全員喰わせるからと言って、寺に鬼を招き入れた。悲鳴嶼さんが鬼避けに焚いていた香を、獪岳は自ら消した。子供たちは、一人を残して皆死にました。
「駄目だ。頼れない⋯⋯。俺だけならともかく、他の人が犠牲になったら⋯⋯。炭治郎」
善逸は、まだ目覚めぬ友人に視線をやった。
「起きてくれよ炭治郎!! 俺は頭が変になりそうだ!! 何やってんだよ、あの馬鹿!! なんで爺ちゃんは、俺や、あんな奴を⋯⋯。俺がしっかりしてないから、爺ちゃんも火憐さんも!!」
「善逸」
カナヲは、掛ける言葉が分からず、立ち尽くした。