第59章 伝達
胡蝶は散らばった本を拾い上げながら、玄弥の心中を察して言葉を紡いだ。
「あの子は柱の中で、最も優れた人ですよ。これまで柱になれなかったのは、単純に席が空いていなかったから。下弦の鬼を二体単独で、上弦の陸をほぼ無傷で討っています。隊士になる以前から、判断力に優れていたと聞きます。今も、鬼殺隊の最も危険な任務にあたっています。悲鳴嶼さんにも、聞いてみてください。きっと答えは私と同じはず。あの子には、敵わない、と。それから、貴方はお礼を言うべきです」
胡蝶は、ようやく何時もの笑みを取り戻し、自分も席に着いた。
「貴方に使用している薬の一部は、火憐さんが作った物です。貴方に使用している事は伝えていませんが、鬼用の治療薬は、彼女が手に入れ、成分を組み替えた物です。使用している人間は、現在二人。貴方とお館様。とても高価な薬です。成分を組み換える度、その開発費を捻出しているのは、火憐さんです。あの子は、柱の中でも、最低限の給料しか貰っていませんが⋯⋯」
「どんな人⋯⋯なんですか?」
「容姿は、私の姉さんに良く似て、目が醒める程の美人です。不死川さんが、恋をするくらいに」
「兄貴が?!」
玄弥は途端に前のめりになって喰いついた。胡蝶はくすくす笑った。
「まあ、袖にされていましたけれど。それでも、あの不死川さんが、追いかけ続ける程、素敵な人です。きっと貴方も好きになります。火憐さんには、不思議な力がありますから」
「俺は、兄貴の物を盗るつもりは無いです」
「いえいえ、火憐さんは、冨岡さん⋯⋯水柱の物ですね。怪我を見ますが、少し待っていただけますか? 手紙を書いてしまいますので」
胡蝶が、治療よりも伝達を優先したのは、初めてだった。
一方、鴉から手紙を受け取ったカナヲは、困惑していた。正直、自らの師範を抑え込んだ火憐に、彼女はあまり良い印象を抱いていなかった。
しかし、手紙の内容は、ただひたすらに、カナヲを案じる物で、必ず生き延び、鬼舞辻の討伐に加われる様、鍛錬を積む様にと書かれていた。
そして、手紙には、善逸、炭治郎、猪之助に向けての言葉も綴られていた。