第59章 伝達
(コイツ⋯⋯動きが異常だ。何の変化だ)
木刀を手に、伊黒は冨岡を睨んだ。元々冨岡の気配はとても静かで、それ故に動きを読みにくかったのだが、今は嵐の様に渦巻いており、何一つ読めなかった。
(短期間で何があった? 火憐の事か? コイツが他人に影響される様な人間か?)
「考え事か」
冨岡は表情一つ変えずに、次々と技を放った。
(折れる!)
伊黒が冷や汗を掻いて後退した時。其々の肩に鴉が舞い降りた。手紙を携えている。
冨岡は、初めて表情を歪めた。火憐の手紙には、大抵常軌を逸した事が書かれている。
(何かあったのか?!)
彼は急いで文を広げ、目を通し、安堵した後、表情を引き攣らせた。
「無茶だ」
伊黒も、思わずそう零していた。
(複数の技を一度に?! あの女、正気か?! いや⋯⋯)
手紙を送って来た時点で、火憐は実現している可能性が高い。そういう人間だ。
速度が鍵である以上、こちらは不可能では無い様に思えた。
問題は、複数の呼吸の型を同時使用する手段だ。柱同士の連携が必須で、尚且つ五大流派の中で、雷の呼吸を使える剣士が殆どいない。正確には実戦で使える者が。
上弦の鬼を討った隊士が一人いるが、壱ノ型しか使えないという。
そもそも、水や炎はともかくとして、技が廃れてしまい、数が合わない。さらに付け加えるのであれば、水の呼吸の干天の慈雨に関しては、鬼を狩るのに全く向かない。
「問題無い。重要なのは個々の技ではなく、其々の呼吸にある、動作の特徴を活かすことだ。恐らくそれら全てを同時にこなしたものが、日の呼吸だ」
冨岡は、冷静に分析した。
「呼吸は適性がなくとも、一応使える。火憐は既に、雷の呼吸の育手と連絡を取っている。日の呼吸については、炭治郎と火憐の二人が扱える。代わりがいる。炎も火憐が引き継いだ。水の呼吸の使い手は山程いる。問題無い。鍛錬だ」
彼は再び木刀を構え直した。少しでも早く強くなり、さっさと任務を片付けて、火憐の元へ向かいたかったのだ。
伊黒は、平静を保てなかった。その後に記された、鬼舞辻との総力戦についての記述を読んで。