第58章 繋ぐ者
「駄目です」
火憐は、首を横に振った。ようやく冷静になれた。
「そもそも、柱二名が同じ地区にいる事自体異例なのです。元柱の煉獄さんには、きっと何時か重要な役割を与えられる事でしょう。千寿郎君が跡を継げなくても、此処は藤の紋の家として機能します。私の能力は、鬼舞辻無惨も認知しており、狙われる可能性があります。この屋敷が襲撃を受けるわけには行きません。お気遣いありがとうございます」
「宇那手さん」
千寿郎は、機敏に父の心を察して火憐にしがみ付いた。
「また、遊びにいらしてください。貴女を見ると、母を思い出すんです。きっと父上も」
「馬鹿なことを」
槇寿郎は慌てて否定した。自分の息子よりも年下の娘に、妻の面影を重ねて見るなど、ふざけている。
「俺はただ──」
「ああ、そうだ。お詫びを忘れていました」
火憐は笑顔で話題を切り替えた。
「私の継子が、貴方に頭突きをかましたそうで、申し訳ございません」
「いえ。あれは父上が悪いです」
千寿郎はキッパリ言い放った。
「父が兄を侮辱したんです」
「そうでしたか。それなら」
火憐は、目にも止まらぬ速さで、槇寿郎に平手打ちをした。
「貴方が打ちのめされて、深く傷付いていた事は分かります。ですが、自分が傷付いているからといって、他人を傷付け、心を踏み躙って良いはずがありません。それは鬼のすることです。お忘れなき様」
「すまない」
槇寿郎は素直に詫びた。千寿郎は、驚いた表情で言葉を口にした。
「炭治郎さんを継子にしたんですか?」
「煉獄さんは、炭治郎とその同期を継子にすると仰ったそうです。残念ながら、叶いませんでしたが、私が跡を引き受けます。出来る事は、全てやるつもりです。千寿郎君にも、また会いに来ますよ。ですので、今日のところは、これで」
火憐は、お淑やかにお辞儀をした。