第58章 繋ぐ者
「戦うと決めたのなら、最後まで戦いなさい。心が折れても、刀を振るうのです。痛みも苦しみも関係ありません。私や、貴方が勝てるかどうかは、この際重要では無いのです。私達が勝てるかどうかが問題なのです」
「⋯⋯貴女は⋯⋯貴女は」
槇寿郎は火憐の手を握って涙を溢した。
「貴女は全てを継いでくださった。完璧に。感謝してもしきれない。ありがとう」
「こちらこそ。煉獄さんとの出会いは、掛け替えの無い物でした。ありがとうございます」
火憐はお辞儀をして、踵を返した。きっと煉獄家は、もう大丈夫だ。
踵を返したその後ろ髪に、赤いトンボ玉の簪がハッキリと見えた。槇寿郎は、殆ど本能的に火憐の手首を掴んでいた。
驚いて振り返った彼女の顔は、瑠火とは、似ても似つかないものだった。しかしそれでも、纏う雰囲気が良く似ていたのだ。
「貴女は、家族を喪ったと聞きました。もし嫌でなければ、煉獄家の養子になりませんか?」
火憐は、目を見開いた。それは、とても魅力的な提案だった。槇寿郎からも、千寿郎からも、心からの心配と、優しさを感じ取れた。だからこそ、火憐は慎重に答えを探った。
「⋯⋯私は、貴方方一族にとって、不名誉な存在になるかと思います」
「どういう事でしょう?」
槇寿郎は首を傾げた。火憐は、苦笑した。
「私には、添い遂げたい殿方がいます。祝言も上げる前に、既に身体の関係を持ちました。何時死ぬか、分からないからです。私の体は変異しており、戦闘に問題無いと判断しましたが、万が一──」
「関係ありません」
槇寿郎は、強く否定した。
「貴女は剣士です。当然のこと。因みにお相手は?」
「水柱の冨岡義勇という者です。私の師範です。彼も天涯孤独の身で、特別な家柄の者ではありません」
「柱⋯⋯ですか。何故そんな⋯⋯」
「仰りたい事は分かります。柱であれば、命を失う危険性は、一般隊士と段違いです。でも⋯⋯だからこそ、私達は理解し合えた」
「構いません。どうか、提案を受け入れていただけませんか? この屋敷には使用人もいます。貴女も、水柱の方も──」