第58章 繋ぐ者
火憐が会得出来た日の呼吸は、此処までだった。神楽という先入観に捉われていなかったお陰で、炭治郎の物よりも、本来の姿に近い物だった。
(まだ動ける!!)
「雷の呼吸、壱ノ型、霹靂一閃」
どんな呼吸でも、きちんと学べば扱える様になり、一定の威力は引き出せる。適正に合った呼吸には劣るし、体力も消耗するが、覚えておいて損はない。相手の不意をつける。
「音の呼吸、壱ノ型、轟。伍ノ型、鳴弦奏々」
最早妄執だった。戦線離脱した者、死んで行った者の技を、何一つ忘れたくは無かった。例えこの世の全ての鬼が滅んだとしても、命を賭して戦った者たちの、血の滲むような努力を、無かったことにはしたく無かったのだ。
(流石に限界が近い⋯⋯。でも認めて欲しい! 私が生き残った事を!! それには、意味があったのだと!!)
「花の呼吸、弐ノ型、御影梅。肆ノ型紅花衣」
花の呼吸は、水の呼吸から派生した物で、扱いやすかった。しかし、育手もおらず、先代花柱が殉職した事で、幾つかの型が失われている。
「伍ノ型、徒の芍薬。⋯⋯陸ノ──」
「宇那手さん!」
駆け寄ろうとした、千寿郎の肩を、槇寿郎が掴んだ。火憐は血を吐いていたが、瞳に強い光が宿っていた。
「陸ノ型、渦桃。蟲の呼吸、蝶ノ舞、戯れ!! 水炎の呼吸、壱ノ型、水烈斬。弐ノ型 、流流炎斬。参ノ型、炎虎大滝舞。拾壱ノ型、流炎舞。拾弐ノ型、流炎舞、反転!!」
彼女は、自分の存在意義を示すため、全ての技を出し切った。肺の血管が破裂していた。それも、すぐに呼吸で止血し、立っていた。
槇寿郎は、信じられない気持ちで立ち尽くしていた。彼女一人で、柱三人分以上の戦闘力だ。上弦の鬼とも、間違いなく渡り合える。日の呼吸を使いこなせなくとも、彼女なら、と期待出来る。こんな無茶な戦い方をする剣士は、長い歴史の中でも、彼女一人だろう。始まりの呼吸の剣士とは別の意味で、天才だった。
それなのに、火憐は、泣き出しそうな笑みを槇寿郎に向けて、開口一番こう言った。
「私は⋯⋯生きていても良いでしょうか? 煉獄さんの代わりに、生きて行く事が許されますか? この羽織に相応しい人間でしょうか?」