第58章 繋ぐ者
「違います」
火憐は首を横に振った。
「貴方の背中を見ていなければ、煉獄さんは、他人の為に戦って死ぬ事なんて、考えなかった。人を守り、与える事の尊さを教えたのは、他ならぬ貴方です。煉獄さんが勝てたのは、貴方のおかげです。求めるだけでは無く、人に与える事の出来る人だからこそ、抜け出せた」
「貴女は、お館様に良く似ている」
槇寿郎は目を伏せて囁いた。
「人が望んだ言葉を与えてくれる。選ばれた存在なのだろう。⋯⋯すまない。こんな小さな女性に⋯⋯俺は⋯⋯。貴女も死ぬ覚悟なのだろう?」
「勝算はあります。戦いの技術だけでは無く、様々な要因から。でなければ、私は他の隊士の命を踏み台にしてまで、鬼舞辻を殺すとは言いません。あの男のために、罪の無い人間を犬死させるつもりは毛頭ありません。無理だと判断したら、次の世代に託します。私の世代で、勝てるんです」
#火憐#の言葉には、不思議な力があった。まるで、口にした事全てが実現する様な錯覚を人に与える。槇寿郎も、何故か気分が高揚した。目の前の少女は、必ずやり遂げるだろうと、確信を持った。
「中へ入ってくれ。技を見せて欲しい」
「御意」
火憐は、侍らしく頭を下げて、槇寿郎に続いた。
煉獄に稽古をつけて貰った中庭へ行くと、千寿郎も立っていた。
「こんにちは」
火憐は感じ良く挨拶をし、膝を少し折って視線を合わせた。
「お手紙をありがとう。日の呼吸についても、色々教えてくれて。お陰で、幾つかは使える様になりました」
「使える様に?!」
「うん。竈門君の動きを見て覚えたの。今から披露するから、良ければ見ていてね。⋯⋯ 槇寿郎様も離れていてください。技の威力を最大まで出し切りますので、恐らく現役の柱でも、まともに受ければ刀が折れるかと」
火憐は庭の中心まで行くと、抜刀した。
まず、水の呼吸を全型連続で披露した。疲れは感じなかった。
(成長している!)
続けて炎の呼吸。壱ノ型から、㭭ノ型までを連続で。そして、煉獄が独自に生み出した玖ノ型。
(動ける! まだ限界では無い! 確実に強くなっている)
そして、日の呼吸。
「円舞! 火車! 灼骨炎陽!」