第57章 家族の絆
「元よりそのつもりだ。そのためにも、鍛錬に励む」
冨岡は火憐を腕を掴み、立ち上がらせた。そして、これまでで一番の笑みを浮かべた。
「宇那手。俺は両親や姉に恨まれるかもしれない。それでも、お前が一番だ。幸せになって欲しい。俺だけでは駄目だ。お前自身が望まなければならない。幸せになりたいと、望んでくれ」
「⋯⋯貴方がいたから」
#火憐#は、必死に涙を堪えて、笑みを返した。冨岡の手を取り、頬に当てて言葉を絞り出した。
「私は生きてこれました。貴方が望むのならば⋯⋯望んでくださるのなら、私も望みます。私自身の幸せを。貴方と共に生きる幸せを。今は、過去を捨て去ります。何時か終わりが来た時、母を詰問する事は出来ます。喪われた者ではなく、今、生きている貴方を見て、生きます。冨岡さん、ありがとうございます。さようなら。また今度」
「ああ」
冨岡は子供に接する様に、火憐の頭を撫でて立ち去った。
(私は驕っていた)
火憐は胸に手を当てた。感情の制御は、冨岡の方がまだ優れている。彼は人を心から思い遣り、導く事が出来る。
「宇那手!!」
華が、履き物も履かずに飛び出して来た。
「宇那手、ごめんなさい!!」
「貴女は言い訳をしなかった。家督を継いでいたのは、母だったのですね?」
「宇那手⋯⋯あの──」
「時間をください」
火憐は、苦労して消え入りそうな笑みを向けた。
「私は貴女を赦したい。だから、時間をください」
「だけど⋯⋯貴女は鬼狩りで⋯⋯次が──」
「この場で赦しを強要するのですか?」
火憐は、心のままに言葉を放った。
「変ですよね。ごめんなさいと言われたら、どれほど酷い仕打ちを受けても、赦さなければならない空気がある。傷付けられた側の気持ちは考慮されない。それでも、私は貴女を赦したいと言っているのです。貴女は赦され、今すぐ楽になりたいのですか? 私がこの三年間、どれ程の思いで己を鍛え上げて来たか⋯⋯」
「お願い聞いて!!」
華は腹の底から声を上げた。