第57章 家族の絆
「一香が鬼にされた時、貴女がどの様に対応してくださったか、聞いています!! 私たちに危害が及ばぬ様、死力を尽くしてくださったと聞きました!! 心からお礼申し上げます!!」
華は畳に額を着けた。
「柱として、尊敬致します」
「そういえば⋯⋯」
火憐は、ふと気になる事があって口を開いた。
「鬼舞辻無惨は、やはり藤の花を避けるのでしょうか? 襲撃を受けた屋敷と、そうで無い屋敷の記録を見たのですが、庭に植えている藤の本数にさしたる違いはありませんでした。彼が、人間としての拠点を浅草に構えている事は知っています。鬼の身体能力なら、この屋敷を襲い、夜明け前までに戻る事も可能。確かに藤は鬼避けになるのですが、鬼舞辻程度の力を持つ鬼なら、吸い込んだ所で、毒の分解が追い付くはず。何故この屋敷は無事だったのでしょう? あの晩何か起きましたか?」
「⋯⋯実は」
蓮は、額に汗を掻きながら何度も口を開閉した。火憐は堪りかねて、彼の肩に手を置いた。
「責めるつもりはありません。鬼殺隊士として情報が欲しいのです」
「申し訳御座いません!」
華は声を枯らして叫んだ。
「私共は、町へ退避しておりました」
「どういう事でしょう?」
「藤の紋の家が襲撃されているとは、知らされておりました。一香が⋯⋯藤の枝を切り落とし、屋敷の扉を開放し、町へ避難する様に、と」
「懸命です。藤の花は、そこに鬼に対する知識のある者がいる目印になりますから」
火憐は、冷静に話す努力をした。
「それで? 切った枝はどうしたのですか? 匂いが残ります。どの様に対処したのでしょうか?」
「獣の肉と共に焼きました。⋯⋯ですが⋯⋯一香が生花として飾りたいと、何本か持って行ってしまって⋯⋯。その二日後⋯⋯」
「なるほど」
「お許しください! 責務を放棄したこと! 私は身篭っていました! 他にも息子が二人と、娘が──」
「許します。結果として、死人は二人しか出なかった」
火憐は、ようやく得心が行った。おかしいとは思っていたのだ。両親を失ったばかりの、身寄りの無い女を、冨岡が数時間に亘り放置した事。一緒に任務をしていて分かったが、彼は必ず、生き残った者に親族を頼るか確認し、安全な場所へ連れて行く。しかし、そうしなかった。出来なかったのだ。