第57章 家族の絆
「ああ⋯⋯やっぱり、あの子の娘だわ⋯⋯」
華は悲しげに笑った。
「一香も、猟銃を奪って、大介さんを三日三晩追い回して、結婚したから」
「猟銃?!」
火憐は、父の心労に思いを馳せた。父は気弱で寡黙な人だった。
鬼殺隊士が刀を持っているのは当然だが、良家の娘が猟銃を奪って追い掛けて来る様は、冨岡が目にした自分よりも遥かに恐ろしかっただろう。しかも空気の薄い高尾山の中を。
父に惚れるまで、母が藤の紋の家で大人しく過ごしていた事を考慮すると、本当に元々強靭な身体を持っていたのだろう。
「⋯⋯なるほど。悲観するな、という事でしょうか」
火憐は、顎に手を当てて考えた。母は、実家の話を殆どしなかったが、身体能力が特異体質によるものだとしたら⋯⋯。
「私は余命宣告をされているのですよ」
「え?!」
華は大声で口を覆った。火憐は、首に浮かび出た痣を見せた。
「上弦の鬼に対抗し得る力を持った者に現れる記しです。この痣が現れた者は、二十五歳を超えて生きられないそうです。現状、私と、もう一人痣者がいるのですが⋯⋯。うーん。あわよくば、天寿を全う出来るかも知れませんね」
彼女は一人で黙り込んでしまっても不気味だろうと、出来るだけ考えを口に出した。
「元来の異常体質に加えて、私は戦う才能があり、それほど大怪我を繰り返していません。呼吸の切り替えは一度。進化も一度。適正に合わない物は、使用回数も少ない。これは、もしかすると、奇跡が起こるかも知れませんね」
「私たちには理解出来ないけれど⋯⋯貴女が救われるかも知れないのね?」
華は泣きそうな表情で詰め寄った。火憐は、柱として、安心させる様に頷いた。
「はい。気持ちが楽になりました。きっとお館様は、このために私を派遣したのですね」
彼女は、どう接して良いものかと悩んでいる親族に、柔らかな視線を注いだ。
「私のことは、鬼殺隊の柱として接してください。私が、尊敬に値する人間だと思えば、その様に振る舞ってください。親類としての情は不要です。元々、お会いしたことも無かったのですから」