第57章 家族の絆
「水炎柱の火憐宇那手です」
火憐は、刀の彫りが見える様に抜いて、鞘に戻した。
「どうして⋯⋯」
女性は、火憐に駆け寄って首に抱き付いた。
「どうして頼ってくださらなかったのですか?! 何故鬼狩りなんかに⋯⋯。こんなに⋯⋯こんなに小さい子が⋯⋯柱だなんて!!」
「私⋯⋯嫌われているとばかり──」
「貴女が私なら、そう思いましたか?! 憎むべきは鬼です。鬼狩りに命を救われた一族なのですよ!!」
「華、何を騒いでいる?」
屋敷の中から、男が姿を表した。火憐叔母、華は血相を変えて振り返った。
「柱の方がお見えになりました! 私の⋯⋯妹の子で⋯⋯私の姪です!! まさか、鬼狩りになっていたなんて⋯⋯」
「落ち着きなさい。今お前の目の前に立っていらっしゃるのは、柱だ」
「敬意は不要です」
火憐は丁寧に頭を下げた。
「それは、肩書きによって得る物ではなく、私が自分の力で勝ち取るべき物。私はお館様の命で此処へ来ました。何か事情があるのでは?」
「初めまして。華の夫の蓮と申します。恐らくは、妻の家系についてのお話かと。鴉から話は聞きました。此処へ送る柱には、全てを話して構わない、と。何のことだか分かりませんでしたが、貴女がいらっしゃったので事情を理解出来ました。中へ入ってください」
「失礼致します」
火憐は主人に従い、そこそこ立派な屋敷に足を踏み入れた。使用人も、子供もいた。この屋敷が鬼に襲われずに済み、本当に良かったと、彼女は胸を撫で下ろした。
「此方へ」
主人は、火憐を床の間に案内した。
「どうぞお掛けください」
彼は火憐を上座に座らせると、膝を着いて妻共々深く頭を下げた。
「まずは、日頃より、人々の生活をお守りいただいている事を、深く感謝いたします」
「気を遣わないでください、叔父さん。私は任務では無く、休養の為に立ち寄ったので。夜には発ちます。何か、私に話しておくべき事があったのでしょうか?」