第57章 家族の絆
食事を終えると、まず桜里が目隠しをされ、隠に担がれて刀鍛冶の里へ向かった。
火憐は、産屋敷に幾つかの進言をしてから、自身の担当を務める隠の元へ行った。
「後藤さん? あれ? 案内は身元の割れていない方が務めるのでは?」
「俺の名前も覚えてくださったんですか? いや⋯⋯貴女を先に、ある場所へお連れする様に言われたので」
「では、自分の足で歩きます」
「いや、駄目っス。重症なんで、必ずおぶって行く様にと、厳命されたんで」
「分かりました」
火憐は渋々、年上の男性の背中に乗った。指示に従わなければ、罰を喰らうのは後藤の方だ。
「あの、何処へ向かっているんでしょう?」
火憐が耳元で頻繁に喋るので、後藤は辟易していた。
「藤の紋の家に連れて行けと言われました」
「え?」
「高尾山の麓です」
「待って! 止めて!」
火憐は、血の気が失せるのを感じた。母方の親族が、今も暮らしているはずだ。母には、姉がいた。妹が、実の娘に殺されたと知った時、何を思っただろうか。
「止めて⋯⋯お願い!」
「お館様の命令なんで」
後藤は素っ気なく答えて、走り続けた。昼前には、立派な屋敷の門の前に立っていた。
もう後戻りは出来ないと、火憐が門を開けると、壮年の女性が子供を背負い、掃除をしていた。その人は、火憐の姿を捉えると、衝撃を受けた様子で箒を取り落としてしまった。
火憐も動けなかった。女性は、母と瓜二つの容姿だったのだ。
「あ⋯⋯嘘⋯⋯」
女性は口元を覆った。
「柱の方が来ると⋯⋯嘘⋯⋯貴女⋯⋯宇那手ちゃん⋯⋯」