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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第56章 さようなら


「泣くな!」

 宇髄は、心底面倒臭そうに呻いた。元はと言えば、冨岡の意味不明な主張のせいだが、泣き出した女ほど厄介な物は無い。彼はそのせいで、遺言を伝え損ねそうになったのだから。

「やかましい!」

 部屋の外から一喝され、全員が縮み上がった。隊服に着替え、特徴的な羽織を纏った火憐が、顔を顰めて立っていた。

「宇那手ちゃん⋯⋯。その羽織⋯⋯」

「はい。煉󠄁獄槇寿郎様が、仕立て直した物を贈ってくださいました。つまり、これはもう、男性の上背には合いません。私の代で、鬼舞辻を殺すというお約束をしました。⋯⋯冨岡さん」

 火憐は、隊士の顔付きで、みっともなく壁に打ち付けられている、かつての師範に歩み寄った。

「努力に意味が無い。それは、血の滲む様な努力をして来た、柱に対する冒涜でしょうか。貴方が水柱を名乗らないのなら、私が名乗ります。柱二名分の任務を、私が背負います。努力もしない。任務放棄とも取れる発言をする。そんな貴方を、私は心底嫌いです。会いに来てくださらなくて、結構。私は戦う意志のある者の為に尽くします。さようなら、冨岡さん。誰よりも強く、頼もしい貴方の背中が好きでした」

 一転、火憐は、他の柱には笑顔を向けた。

「それでは、皆様の武運長久を祈ります。甘露寺さんは、一緒にお食事をどうですか? 洋食を作っていただいたのですが」

「はーい! 行きます! 行くー!!」

 甘露寺はすぐに表情を切り替えて、火憐に着いて行った。代わりに部屋へやって来た胡蝶が、冨岡の頬をまた叩いた。

「冨岡さん。本当に引退されては? 私は貴方が羨ましい。鬼の首を斬ることが出来る。それなのに、貴方という人は⋯⋯。言葉が足りないで、済まされる問題ではありません」

 文字通り袋叩きにされ、冨岡はかつて無い程打ちのめされていた。

「鬼さえ許す火憐さんに嫌われて、本当にどうしようも無い人ですね。結局彼女が見た最後の顔は、頬の腫れた惨めな表情。自分が一番不幸だと思い込んでいる顔」

 胡蝶は、容赦なく続けた。

「誰しも怒りや、痛みを抱えて生きています。貴方だけじゃありませんよ。自分だけ不幸ぶるのは止めてください。心が揺らいでいますよ、水柱冨岡さん」
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