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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第56章 さようなら


「さようなら、冨岡さん」

 火憐は、無理矢理冨岡の腕を引き剥がした。

「また数日で会えるんですよね? 上弦の鬼が動くのは、竈門君が回復してからです。その間に、会いに来てくださいますよね?」

「数日で行く」

「仕事は、きちんとなさってくださいね」

「分かった」

 返答を聞き、火憐は冨岡の頭を撫でた。

「そんな顔でお別れをしたくありません。何時最期が来ても、貴方の優しい顔を覚えていたい。私は、笑った顔を思い出して欲しい。さようなら」

 にこりと微笑んだ彼女に、冨岡は微かな笑みを返した。

 火憐が胡蝶に連れられ部屋を出た途端、冨岡は柱達に詰め寄られた。

「冨岡さん! 宇那手ちゃんは、どうやって貴方の心を掴んだんですか?!」

 甘露寺が頬を染めて騒いだ。冨岡は溜息を吐いた。

「宇那手は、他の人間とは違った。下弦とはいえ、十二鬼月を討つ時に、当時は階級が上だった俺に、的確な指示を出した。そしてその後」

 彼は初めて虚な目で、語った。

「不眠不休で、三日三晩、鬼の様な形相で追いかけ回された。冬の山の中を。継子にしないなら、殺せと。俺に救われた命だから、俺が始末をつけろ、と。はっきり言って、俺は那田蜘蛛山の戦いより、あいつの方が怖かった。俺より能力が高い事はすぐに分かった。実績を早くに積み過ぎて、あいつの階級が追い付いていない事にも気付いた。継子にすれば、見直されるだろうと思った。きっかけはそんなところだ。仕方なく傍に置くうちに、見返りなく俺に尽くすあいつに、何かを与えたいと思った。与える度に、俺の方が救われて行った。俺の事を話す度に、背負っている物が軽くなる様な錯覚を覚えた。そして、最近は、あいつに何一つ与えてやれていない事に気付いた。もう守ってやることも出来ない。全てに於いて、あいつの方が優れている」

「だが冨岡」

 悲鳴嶼は慎重に言葉を選んだ。冨岡が極めて繊細な人間であった事を、初めて知ったからだ。

「お前が、お前である事は、何にも代え難い事実だ。火憐が、初めて柱合会議に呼ばれた時の事を覚えているだろうか? あの娘は、まるで人形の様だった」
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