第56章 さようなら
「いえ、それは⋯⋯。冨岡さんは⋯⋯手が優しくて⋯⋯その⋯⋯実を言うと一度⋯⋯本当に倒れるまで抱いて欲しい⋯⋯というか⋯⋯っ! わ⋯⋯私何を!!」
「今の言葉」
冨岡は火憐の腕を掴んで引き寄せた。
「決して忘れるな。お前が良いなら、遠慮は不要だな」
「遠慮⋯⋯してたんですか? あれで?! ⋯⋯っ?!」
冨岡は、柱の面前で火憐の唇を塞いだ。舌を絡め、歯列をなぞり、腰に手を這わせた。
甘露寺は顔を手で覆って叫んでいたし、宇髄は唖然としていた。胡蝶は死んだ目で見ていた。
火憐は羞恥に顔を赤らめ、必死に身を捩ったが、冨岡に教え込まれた快楽を、逃す事が出来なかった。
(嘘⋯⋯嘘、嘘! 私⋯⋯口付けだけで⋯⋯)
彼女は冨岡の腕の中で、身体を震えさせた。達してしまったのだ。
「と⋯⋯と⋯⋯冨岡さん!! 嫌だ!!」
「お前は、自分で嫌だと言うことを、されると悦ぶ」
「ち⋯⋯違うんです! 本当に⋯⋯私──」
「俺は何故か、お前が嫌だと言うことをしたくなる。お前の啼き声が心地良い。倒れるまでということは、即ち、お前が幾ら泣き喚こうが、俺のしたい様にして良いということだな?」
「違います! 嗚呼⋯⋯でも、貴方は⋯⋯貴方は本当に酷い事は何一つしないから⋯⋯。でも──」
「冨岡さん。そろそろ火憐さんを離していただけませんか? 永遠の別れという訳では」
胡蝶は言い掛けて、口を噤んだ。
別れは、唐突に、突然訪れる物だ。柱になった人間は、約束された再会を破壊された者ばかりだ。
「⋯⋯仕方ありませんね。あと半刻は待てますから」