第56章 さようなら
火憐は、早朝、目を覚ますなり、自分を取り囲む様に柱が集結している事に驚いた。
「あ、火憐さん、起きました?」
胡蝶が少し疲れた顔で笑った。彼女は一睡もしていなかった。
「皆さん⋯⋯どうして?」
「傍にいると約束しましたから。約束は守ります。必ず」
胡蝶の言葉に、火憐は唇を綻ばせた。
「ありがとうございます。皆さんのお陰で、頑張れます」
「しばらく頑張るのは禁止ですよ」
甘露時がニコニコ言葉を紡ぐ。
「刀鍛冶の里には、温泉があるんです! しばらくゆっくり過ごしてくださいね。私も週に一度は顔を出しますから!」
「俺は任務に戻る。甘露寺とは予定をすり合わせて、別日に様子を伺いに行く。一人で眠れるか?」
冨岡の言葉に、火憐は苦笑した。
「大丈夫ですよ。でも、少し寂しいです。冨岡さん、好きです」
彼女は正直に胸の内を曝け出し、冨岡の唇に触れるだけの口付けをした。他の柱の手前、冨岡は赤面し、身を引いた。
甘露寺は黄色い悲鳴を上げ、宇髄は気まずそうに視線を逸らした。
「宇髄さん、しばらく弟子たちをお願いします。全集中常中を身に付けるまでは、見守っていただくだけで構いませんから。全員、信頼に足る人達です」
「おう! 派手にみっちり躾けてやる!!」
「見守るだけで良いんですってば! 貴方の怪我も癒えていませんし。すみません。私、お見舞いの手紙も送らず──」
「二度と謝罪を口にするんじゃねえ! ぶっ飛ばすぞ!!」
宇髄はそう言うと立ち上がった。彼は以前より大人しい服を纏っており、素の精悍な顔立ちが際立って見えた。
「宇髄さん」
「あ?」
「その方が男前ですね」
サラリと述べられた火憐の言葉に、宇髄は頭を抱えた。
「お前なあ、そう言うことを簡単に口にするな。大抵の男は勘違いするぞ。気を付けろよ」
「勘違い?」
「お前が俺を好きなんじゃないかって、思っちまうんだよ!!」
「私は皆さんが好きです」
「なら、お前も嫁になるか?」
「いえ。どうしてもという場合は、宇髄さんが婿に来てください。私には冨岡さんがいます」