第55章 心の蓋
「はい⋯⋯。貴方とだけ、結ばれたかった⋯⋯。ごめんなさい⋯⋯ごめんなさい!」
「謝るのは禁止ですよ」
薬の用意が終わった胡蝶は、火憐のそばまで行き、傷だらけの左腕に針を刺した。その腕は、年頃の娘とは思えないくらいボロボロになっている。
「さあ、目を閉じてください。傍にいますから」
胡蝶の言葉に従い、火憐は目を閉じた。彼女が眠りに就くまで、半刻は掛かった。ようやく寝息を立て始めたのを聞いて、胡蝶は脱力した。
「⋯⋯鬼舞辻は、火憐さんを殺すつもりだったのかも知れません。童磨がどんな嗜好を持っているか分かっていたはず。敢えて引き渡したのは、生き残れるか試していたのかも知れません。その証拠に、生き残ったこの子を、今度は自分の手で⋯⋯」
「良くそんな状態で笑ってられたな、コイツ」
宇髄は無意識に身震いしていた。男の彼でも、生首のある部屋で、返り血塗れの女の鬼に取り押さえられたら、正気を保っていられる自信は無かった。
「だから、伊黒さんも、あんなに怒っていたんですね」
甘露寺は口に手を当てて囁いた。
「お館様に腹を立てた事なんて、一度も無かったのに。今の宇那手ちゃんの話しも、お館様は知らないんですよね?」
「宇那手が黙っていたのだと思う」
冨岡は、火憐の額を撫でながら答えた。
「俺にも話さなかった。つまり、こいつに口を割らせるには、同じくらいの痛みや絶望を与える必要があると言う事だ。確かに情報収集には向いている。今は⋯⋯今は、俺がこいつの足を折ってやりたいくらいだ。もうこれ以上、苦しまずに済む様に」