第9章 「愛している」
「んっ!!」
宇那手が苦しがって、冨岡の胸を押したので、彼は手を離した。
宇那手は、パッと口元を覆い、後退した。
「な⋯⋯なんですか! きゅ⋯⋯急に⋯⋯なんで──」
「⋯⋯人間の習性だ」
「習性?!」
「鬼が人を喰らう様に、美しい娘がいたから、喰らいたくなった。言っておくが、俺はこの二十一年間、一度も女に手を出した事はない。かなり手荒になるが、それでも構わなければ、家族ごっこに興じよう。無理なら、お前を煉獄に預ける。傍に置いておけば、手を出さないとは、言い切れん」
宇那手は、冨岡の言葉を飲み込むのに、随分時間が掛かった。
「私⋯⋯私は、貴方を守ると決めました。だ⋯⋯だから、貴方の思う様な家族を⋯⋯え⋯⋯演じます。ですが⋯⋯その⋯⋯戦えなくなるのは、困ります」
「その点は弁える」
冨岡は即答し、再び宇那手を抱き寄せ、首筋に接吻し、舌を這わせた。
生まれてこの方、誰にも喰われた事はなかったのは、宇那手も同じだ。少しの刺激でも、大きく感情を揺さぶられた。
「ひゃっ!! そ⋯⋯それは⋯⋯んっ! と⋯⋯冨岡さんっ!!」
彼女は何かを抑える様に、冨岡にしがみついた。
「やめて!」
強い拒絶の言葉に、冨岡は宇那手を開放した。彼女は真っ赤な顔を覆って後退した。
「きゅ⋯⋯急にやめてください!!貴方は私の師範で⋯⋯あの⋯⋯」
「やはり煉獄の所へ行くか?」
「嫌です! ど⋯⋯どうして貴方は、一か、十かの判断しか出来ないのですか! わ⋯⋯私は貴方を慕っていますが、急に距離を縮められても⋯⋯どうして良いのか分かりません!!」
「では、どうすればいい?」
「何故それを私に聞くんですか!! 自分の頭で考えてください!!」
到底師範に対する物とは思えない口調で、宇那手は叫んだ。