第54章 仮初の光
「宇髄さんまで⋯⋯。止めてくださいよ。不死川さんも、横恋慕して冨岡さんと一悶着起こしましたし」
「だが、実際冨岡にも問題があるだろう。身体を大事にしろくらい、言ってきかせろや。愛情が足りてないんじゃねえか?」
「愛情は、重過ぎるくらいありますよ。表現が上手くいっていないだけで」
胡蝶は深く溜息を吐いた。
「火憐さんの方にも問題があるんです。多くの人に愛される素質を持ちながら、愛情を受け止められない⋯⋯。加えて、童磨に暴行されてからは、恐怖心を失って、無謀な行動に歯止めが掛からなくなっている。身体を大切に、という言葉が通じないんです。もう壊れてしまっていると思っているから」
「哀れな⋯⋯。本来ならば、一線を退くべきだ⋯⋯」
悲鳴嶼の言葉に甘露時も頷いた。
「私も、ちょっと変だなって。お館様は、どうして宇那手ちゃんを従わせられなかったんでしょう? 駄目と言われても動いてしまう。それに、これだけ酷い仕打ちを受けていれば、引退を促してもおかしくないです」
「恐らく火憐さんは、お館様の声を聞いていません。心を見ている。私たちを不思議な気持ちにさせる、あの声が通じていないんです。だから、お館様も、胸の内を曝け出し、火憐さんを頼ってしまった。恐らく火憐さんだけが、孤独なお館様の本当の心を見ようとしたんです」
胡蝶の言葉に全員が口を閉じて俯いた。思い当たる節があったのだ。
四人がお通夜の様な顔をしていると、冨岡が戻って来た。
「冨岡さん? 火憐さんは?」
「あいつの同期に追い出された。俺がいると気が休まらないらしい」
冨岡は珍しく人の輪の中に入り、胡座をかいた。
「どうしてやったら良いのか分からない。眠っている間は常に泣いている。あれでは休まらないだろう」