第54章 仮初の光
「君が優しい程、私は辛くなる。⋯⋯嗚呼、そうか⋯⋯」
産屋敷は、これまでの自分の言動が跳ね返って来たのだと思った。
優しい言葉や、許しは、謝罪や弁明の機会を根こそぎ奪ってしまう。
彼は、不死川と初めて対面した時の事を思い出した。あの時彼は、酷く打ちのめされ、怒りをぶつけて来た。彼の言っていた事は、何一つ間違っていない。戦えない者が、剣士の長を務めるなど、そんな馬鹿な話があるものか。
産屋敷は、慈愛の心で、不死川の心から怒りを奪い取ってしまったのだ。
「宇那手、君の本音を聞かせて欲しい。どれだけ声を荒げようと構わない。君にはその権利がある」
「全て本音です」
火憐は、笑みを消して答えた。
「ですが、まだ語っていない本音を口にするのなら⋯⋯貴方と鬼舞辻はやり口が似ている。産屋敷一族は、長らく柱が上弦の十二鬼月に敵わないと知りながら、組織の変化を恐れ、秘密を隠し、戦わせた。此処に来て、ようやくご自身を犠牲にする気になったのは、柱や隊士が弱くとも、鬼舞辻に勝てる可能性が見えたから。そうでなければ、鬼殺隊の存続を優先し、動かなかったはず。⋯⋯そう。私は怒ってもいます。此処へ至るまでの時間稼ぎに使われた命や、貴方の求める変化に適応するために、私が負わされた傷について。必要な痛みだと分かってはいても、納得が出来ない。私は、貴方を許したいのに、許せない事が苦しい!! 貴方は悪くないと、分かっているのに!!」
「許さなくて良い」
産屋敷は、蹲った火憐の肩に手を置いた。
「許さなくて良い、宇那手。私は、最も信頼する隊士を、最も深く傷付けてしまった。君が心から許してくれるまで、地獄を歩くつもりだ」