第54章 仮初の光
「ああ⋯⋯ああ⋯⋯。私はなんて事を」
産屋敷は頭を抱えて俯いてしまった。火憐は慈愛の表情を向けた。
「お館様。是非、ご家族の顔をご覧になってください」
「お父上!」
輝利哉を始めとする、子供達は皆、父親の側に集まった。火憐はそっと側を離れた。
「大きくなったね」
産屋敷は、両手一杯に子供達を抱えて涙ぐんだ。
「皆も⋯⋯立派に成長した。しのぶの顔を見れて良かった。天元⋯⋯その怪我を負わせてしまった事を許してくれ。義勇は⋯⋯優しい顔になった。蜜璃は、変わらず可愛いままだね。あまね⋯⋯」
「はい」
「誰一人として、死なせたくはない。だけど、選ばなくてはならない。私が弱いばかりに、お前を巻き込む事になってすまない」
「私に対する謝罪は不要です。それよりも、宇那手さんに」
「宇那手、君はどうしてこんなにも、私に尽くしてくれるのかな? 私は君から奪うことしか出来ない。安全な生活、健康⋯⋯何一つ与える事が出来ないのに」
「鬼殺隊が無ければ、私は居場所を失くしていました。世界そのものを与えてくださった方に、恩を返すのは当然の事です。それに、与えることの出来ない人間は、何も得ることが出来なくなります。私は、お館様に多くの物を与えられています。深く感謝しております」
火憐は、恨み言の一つも言わずに頭を下げた。
「私は幸せです。鬼殺隊に入隊し、多くの方々と出会う事が出来ました。性別に関わらず能力が評価され、成果に見合った報酬を与えられる。私の事を案じてくれる仲間に出会えて、幸せです。一生分の喜びを、この三年間で味わう事が出来ました。何時死んでも、きっと後悔はありません。⋯⋯いえ、後悔は同じです。もう少し生きていたかったと、思うでしょう。この世界は、とても優しく、美しいので」