第53章 真の目的
(時透君?)
彼は健忘症を患っていると聞いた。良く自分の事を覚えていてくれたな、と感心した。
──火憐さん、馬鹿なの? 尽し方がおかしい。非合理的で浅はか。身体がぐちゃぐちゃだったのに、それを隠して任務に行ったってこと? 怪我のせいで他の子が死んじゃったら、どうするつもり? お館様も傷付けて、どうしようも無い人だね。僕の様になりたいの?
「と⋯⋯時透君って、こんなに毒舌なの?!」
「あいつは最初から毒舌だった」
冨岡は死にそうな顔で伊黒からの手紙をしまっていた。ねちねちとした内容だったが、突き詰めれば火憐の代わりにお前が死ねと書かれていたのだ。
手紙を寄越して来た三人の中で、一番サッパリしていたのは、不死川だった。
「もしもーし。お風呂が沸きましたよー」
駆け付けて来た胡蝶は、手紙を手にして青ざめている二人組を見て、少し笑った。
「どうやら、反省された様ですね。火憐さん、湯浴みのお手伝いをします。途中で倒れてしまっては大変なので」
「はい。あ⋯⋯でも、着替えが⋯⋯。替えの隊服はまだ乾いていないですし、あのクソみたいな形の物は⋯⋯失礼。今の発言は忘れて──」
「それって、胸元が大きく開いた隊服の事でしょうか?」
胡蝶は笑みを深めたが、怒りの匂いが濃くなった。
「火憐さんにも、マッチと油を差し上げますね。私は届けられたその時に燃やしました。⋯⋯まあ、その話はまた今度という事で、あまね様が着物を用意してくださいましたから、ご心配なく。歩けますか?」
「はい」
「本当に不思議な身体ですね。トリカブトでも死なないなんて」
「刀身に塗られていたお陰です。首を刺され、血が吹き出したので、殆ど体外に排出されました。佐伯さんの方は、幾つもの死因が想定出来ます。心臓を刺した衝撃、刀身を刺しっぱなしにしたせいで、毒が回ってしまったこと。それから、私の血が付着した短刀で自身を刺してしまったこと。柱なら、誰であれ即死は免れたと思いますが、本当に他の誰かが刺されずに済んで良かったです。まあ、毒の使い方が素人のそれです。確実に殺したければ、飲ませれば良かったのに」