第53章 真の目的
「責めるなら、私を責めてくださいね」
火憐は目を閉じた。胡蝶の薬と珠世の薬があれば、もう問題ない。安心出来たのだ。
「火憐さん、何故水を大量に飲んだのですか? ご自身の解毒剤の効果も薄まってしまっています」
「毒の核が、トリカブトだったんです。致死量の三倍は打ち込まれました。現状解毒剤がありませんので、血と共にある程度出し、水を飲んで吐きました」
「そんな物をどうやって手に入れたのでしょう?!」
「鬼舞辻は、貿易商ですし、薬剤の研究者でもあります。入手は比較的容易だったはず。問題は、佐伯があの毒を、本来誰に使うつもりだったか、です。私に対する悪意は、最後まで感じられませんでした。ただ、深い悲しみと、絶望に支配されていた。柱を害するつもりなら、私よりも先に冨岡さんを狙ったはずです。あの男は、それなりに強かった。私と冨岡さんの身体の構造の違いくらいは見通せたはず。恐らく鬼舞辻やそれに準ずる鬼が、自身の血を分け与える条件として提示したのは──」
「お館様⋯⋯」
胡蝶は最後の薬を火憐に打ちながら、囁いた。火憐は目を開けて、身体を起こし、血で固まった髪の毛を解した。
「肝が冷えました。私の弟子全員を此処へ集めると言われた時には。勿論、最初からある程度目星は付けていましたが、完全に信頼していたのは、村田さんだけです」
彼女は必死に涙を堪えている、冨岡の同期に目を向けた。
「貴方からは、私を探る気配も、悪意も一切無かった。那田蜘蛛山でも一定の功績を上げており、鬼に対して容赦が無い。冨岡さんにも友好的だった。次に、浅井さんは私の能力を知っていたので、継子の時代に私の元へ来ても不思議ではありませんでした。桜里さんと、香川さんは、一時戦線離脱をしていたにも関わらず、同期である私の為に復帰をした隊士です。希望込みで四名は味方と判断し、戦力を分断しました。村田さんを桜里さんと同じ班にしたのは、村田さんが殺気を感じて目を覚ませるから。力が及ばなくても、桜里さんが参戦すれば、対応が間に合った。逆に佐伯の班が起きている間に何かあれば、香川さんが動けたはず。浅井さんも、先程見た通り、相手が人間でも斬る事が出来ると判断しました」