第53章 真の目的
「活性炭、柴胡、狐の手袋、麦角菌、水、其々、ひと匙ずつ煎じてください」
冨岡は指示通りに処方した。火憐はそれを瓶に移し、スポイトでほんの一滴だけ吸い、更に水で薄めてから飲んだ。
「⋯⋯やはり、それ程効きませんね。水を大量に飲むしか⋯⋯」
「すぐに用意する」
冨岡は、また素早く走り去った。
それから火憐は、冨岡と弟子たちに囲まれて二時間横になっていた。胡蝶よりも先に鴉がやって来て、手紙と薬を託した。
「愈史郎さんが、胡蝶さんに連絡をしてくださった様です」
彼女は手に入れた血清を打ち込んだ。すぐに身体が楽になった。水を飲み、何度か吐いたせいで、最も凶悪な毒も体から抜けつつあった。
胡蝶が屋敷にやって来たのは、夕方になってからだ。彼女は、黒く色の変わった血の海に倒れ込んでいる火憐を見て、急いで薬の調合を始めた。
「生きている事が奇跡です」
「自分でも体を弄りました。桜里さん、メモを胡蝶さんに渡してください」
胡蝶は、半ばひったくる様に受け取り、内容を確認した。
「対症療法ですね。貴女がそれ程追い詰められているなんて。珠世さんから、幾つか解毒剤を貰いましたので、併せて使用します」
彼女は笑顔を消し去り、平坦な声で続ける。
「鴉から、色々と聞きました。貴女の身体のことも。その上、こんな任務で、人間に殺されそうになるなんて⋯⋯」
「冨岡さん⋯⋯もしかして、全部話してしまったのですか?」
火憐は恨みがましい目で冨岡を見上げた。彼は頷いた。
「お前が無茶を止めないからだ。俺はお館様にも腹が立った。この件でも更に」