第53章 真の目的
「宇那手!!」
冨岡は火憐を抱き起こした。彼女は、かなり深く刺されたらしく、派手に血飛沫を上げており、冨岡の羽織が赤く染まった。
火憐は指で沈黙を促し、敢えて数秒置いてから、荒い呼吸を何度か繰り返した末に、止血に成功した。しかし、顔色が悪い。
「っ!!」
彼女は一度血を吐き、額に手を当てた。
「⋯⋯毒⋯⋯ですね。だから、耐性の無い彼は即死でした。いえ⋯⋯胸を刺した衝撃で⋯⋯。胡蝶さんを⋯⋯すぐに呼んで──」
その時、小さく猫の鳴き声が響いた。
「⋯⋯そうか⋯⋯」
火憐は自分で体を起こし、茶々丸の背負い袋から薬を取り出して、腕に打ち込んだ。
彼女は空の注射器を取り落とし、その場にへたり込んでしまった。
「鬼の作った毒です。彼はこんな物、何時の間に⋯⋯。珠世様のお陰で助かりました」
「何事ですか?!」
隠に呼ばれて駆け付けて来たあまねは、自害した佐伯と、血の海に沈んでいる火憐を見て後ずさった。火憐は、弱々しく頭を下げた。
「全て私の責任です」
「違います!!」
「違う!」
「そうじゃありません!!」
「師範のせいではありません!!」
周りにいた者が、次々と火憐を守る様に取り囲んだ。
冨岡は、とうとう怒りを抑え切れずに、あまねに向かって叫んでいた。
「どうしてこんなやり方をする?! 火憐の善意を利用し、鬼に与する可能性のある者を洗い出すなど⋯⋯何故こんな卑劣な事が出来る?! 何処までこいつの心を踏みつけにすれば気が済むんだ!! 何故こいつばかりを利用する?! 傷付ける?! 誰よりも鬼殺隊に貢献している者を!!!」