第53章 真の目的
火憐が甘露時との会話を終え、あまねから忠告を受け、今後の動きを伝えられてから、弟子達の元へ行くと、全員明らかに寝不足の表情で刀を振っていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけが無いじゃないですか!! 寝ている間に呼吸の制御なんて、どうすれば良いんです?!」
浅井が半ベソをかきながら喚いた。火憐は苦笑して彼らを宥めつつ、冷酷な表情も浮かべた。
「竈門君⋯⋯約半年前に隊士になったばかりの子も習得しているのですよ? 無理なら止めても構いませんが、仇討ちも諦めてくださいね」
「何か、こう、コツとか無いんですか!」
「ありませんね。心臓を動かすのにコツが要りますか? 全集中の呼吸が当たり前になれば、習得出来ます。⋯⋯それから、私は長期の任務で此処を離れる事になりました。明日からは、元音柱の宇髄さんが稽古を付けてくださいますので、指示に従う様に。全集中の呼吸を身に付けられた者は、私の任務を手伝って貰う可能性もあります」
火憐はさらりと答えながら、女性隊士の構えを修正した。
「貴女は肩の関節が強く、振り上げる力が強いですね。刀を振り上げる際に一回、振り下ろす際に一回、技を使えば、効率良く敵を斬れます。そちらの貴女は腕力も呼吸も弱いので、横着せずに、両手で刀を握ってください。片手を負傷したら、使える方の手に刀を縛って固定してください。そうすれば時間を稼げます」
「見ただけで、良く分かりますね」
村田が、化け物を見るような目で言った。火憐は、化け物とは程遠い笑顔で答える。
「気配です。鱗滝様の修行で、貴方も五感を鍛えませんでしたか? さらに極めれば、気配で相手の力量が測れる様になり、人間に擬態した鬼も見抜ける様になります」
そして、彼女はスッと目を細めた。
「村田さん。ちょっとこちらの刀を握っていただけませんか?」
彼女は無理矢理願って手に入れた、新品の日輪刀を村田に手渡した。
彼がそれを抜き、強く握ると、元々使っていた物よりハッキリと色変わりした。