第52章 怒り
不意に遠くから笑い声が聞こえて来た。甘露時と、火憐の物だ。
──それでね、それでね! 伊黒さんったら、百円も持って来ちゃったの! 幾ら私でも、そんなに食べられないわ!
──冨岡さんも、そういう所があります。一度私が欲しいと言った物は、何度でも買って来てしまって。実は簪も予備が七本あります!
──それじゃあ、他の物をねだってみたら? 冨岡さん、宇那手ちゃんの為なら、何だって買ってくれるわよ!
──貴重なお給料を浪費されては困ります!
──でも、本音を言うと、何が欲しいの? 此処だけの話よ?
──時間です。もっと一緒に過ごしたいなって。
──キャー!! 恋する乙女ね!! 良いなぁ。私ももっと、一緒にいたい! 任務が一緒になる事すらないの!! だから、鬼舞辻を倒すのは、少し楽しみかな。絶対一緒に戦えるもの!
物騒な話しを、かなり呑気にしている。しかし、その明るい声が、産屋敷の心を軽くした。
ほんの一時でも、鬼殺隊士の女性が、普通の女の子の様に過ごしている事が嬉しかった。
「宇那手様と、お話をして参りますね」
冷静さを取り戻したあまねは、一礼して部屋を去った。輝利哉は、父が穏やかな表情で眠りに就くまで側にいた。