第50章 珠世と愈史郎
「何故お前は何時も、他人ばかりを優先する?!」
「じゃあ、我が儘を言いますね。今、貴方の腕の中で眠りたいです。治療に力を使ったので、眠いんです⋯⋯」
火憐は冨岡の胸に寄り掛かった。
(鼓動⋯⋯私よりも遅い。体温も)
「痣!」
火憐が急に飛び起きたので、冨岡は仰天した。
「分かりました、冨岡さん!! 多分ですけれど!! 鬼舞辻をさっさと殺せれば、私の寿命は伸びます!!」
「急に何を──」
「私と他の隊士の決定的な違いは、心拍数と体温です!! 戦いから離れれば、全集中の呼吸を解けます!! 心拍数も体温も正常に戻るはず!!」
何か閃いた時の彼女は、冨岡では制御出来なかった。
「継国縁壱が長生き出来たのは、呼吸の流派という概念が無く、最初から自分に最も適した呼吸法を使用していたからです!! 多くの隊士は、最終選別を終えて、日輪刀の色の変化を見てから、戦い方を変えて行きます!! 呼吸の切り替えには負担が掛かる!! 竈門君はそのせいで、体力の限界を感じていました。水の呼吸から、ヒノカミ神楽に切り替えると、動けなくなると!! そして、その両方の呼吸が体に合わず、威力を引き出せないと!! 貴方は最初から水の呼吸の適性があった!! そして、それを使い続けている!! だから、もし痣が発現しても、長生きできる可能性が高い!! お館様に知らせないと!!!」
「落ち着け、宇那手!! 落ち着いて、眠ってくれ。明日だ。全て明日が来てからだ」
冨岡は無理矢理火憐の腕を引っ張り、布団に押し倒した。
「お前が寝るまで磔にする」
「明日⋯⋯」
火憐は口に出し、泣きそうな顔になった。それは、鬼に親しい者を殺された人々が、願ってやまなかった物だ。明日が来ていれば⋯⋯何時も通りの明日が来ていれば、交わせた言葉や想いがあった。
「明日のことも分からないのに、私は傲慢にも七年後のことを考えている。過信がある。きっと生き残れると。そんな保証は無いのに」