第50章 珠世と愈史郎
「お前がくれる物なら、何でも良い」
「そ⋯⋯その言い方は酷いです! 真剣に選んだので」
「すまない」
冨岡は、自分の頭の中にそれ程多くの言葉が無いことを、改めて悔やんだ。
包みを受け取り、開けてからも、何も言えなかった。火憐は、まるで子供を見る様に笑っていた。
「何時も身に付けられる物が良いと思いまして。冨岡さんは、宇髄さんの様に宝石の類を好みませんし、藤のお守りは、他の隊士にも贈っているので、特別な感じがしなくて。使っていただけますか?」
「勿論だ」
冨岡は、傷付いてぼろぼろの筈の、火憐をきつく抱きしめた。もっと気の利いた言葉を掛けてやりたかった。
「俺は凄く嬉しい」
結局子供の様な感想しか言えなかったが、火憐は、鈴を転がす様な愛らしい声で笑った。
「貴方のそういう所が好きです。言葉足らずだから、嘘が吐けない。何時も咄嗟に本音が口から飛び出る。だから私は安心出来るんです。大好き。⋯⋯大好きですよ、冨岡さん」
好きだと言う言葉が、冨岡の胸に重くのしかかった。言われれば、言われるほど、自分も火憐を好きになって行く。しかし彼女は、あと七年程でいなくなってしまうのだ。もう二度と抱きしめる事も、声を聞く事も出来なくなる。どれだけ深く愛していても、時間は確実に火憐の命を削り取り、冨岡から奪い取って行く。
「宇那手、俺はお前に何をしてやれる?」
「⋯⋯まずは鬼舞辻を殺しましょうね。それから、本当に身体が元通りになったら、私、子供が欲しいんです。その子には、平和な時代を伸び伸びと生きて欲しい。理不尽に命を脅かされる事無く、性別や家柄に縛られず、自由に。貴方に育てて貰いたい。一つの命と懸命に向き合っている内に、月日は流れます。そして、貴方には、もう少し生きたいと願いながら、私の所へ来て欲しいのです」