第50章 珠世と愈史郎
「無理もありません。私は常に身を隠して生きて来ましたから。ですが⋯⋯そう⋯⋯ですか⋯⋯。私は⋯⋯人間として⋯⋯」
「まあ、ある意味鬼舞辻の言い分は正しいんです」
火憐は、珠世の背中を摩りながら、冨岡にも目を向けた。
「鬼殺隊は異常者の集まりである、と。確かにそうです。例え人を喰ったとしても、こうして理性を取り戻し、人間に与する意思を見せた者まで、無条件に斬り殺そうとする。罪を心から悔い改めた者まで、殺しているんです。下弦の累の家族を覚えていますか? 彼女たちは、鬼狩りを恐るばかりに、累に与していた。母蜘蛛や、討伐以前に殺されていた姉蜘蛛は、鬼殺隊が命を保証していれば、こちら側に付いた可能性が十分あります。鬼を、こちら側の戦力として迎え入れられた可能性は、おおいにあったのに、その機会を握り潰して来た。人間⋯⋯こちら側にも非があります。ですので、私は珠世様にお詫び申し上げます。これまで、孤独な戦いを強いてしまい、申し訳ございませんでした」
火憐は畳に額を着けて謝罪をした。
「私は鬼殺隊の在り方について、お館様に進言をしております。一定の信頼を得て、任務の代行を務めています。ですので、これは、産屋敷家からの謝罪と受け取ってください。これまでの非礼をお許しください。そして、どうか、私共に力を貸してください。お願い致します」
「宇那手」
愈史郎が先に動き、火憐の肩を掴んで顔を上げさせた。珠世は衝撃のあまり、言葉を失っていた。
珠世は、産屋敷と自分の利害が一致した事により、お互いを利用し合う程度にしか考えていなかった。しかし、火憐は礼節を尽くした。