第50章 珠世と愈史郎
珠世はゆっくりと口を開いた。そして、壮絶な人生を語った。
病で余命幾許も無かった時に、子供の成長を見届けたい一心で鬼になってしまったこと。
自我を無くし、その子供や、夫を喰い殺してしまったこと。
そして、自暴自棄になり、多くの人間を喰らい、殺してしまったこと。
「私のした事は、到底許される事ではありません。一時は死をも願いました。ですが、私はこの世界で罪を償う必要がある。そんな時に出会ったのが、継国縁壱。始まりの呼吸の剣士です。彼は、あと少しのところまで鬼舞辻を追い詰めた。しかしあの男は、逃げ出した。惨めに、醜く!! 私は許せなかった。その後、血の呪いを解除し、継国縁壱と行動をしていました。あの臆病者の鬼は、継国縁壱が生きている間、ずっと身を潜め続けていた!!」
彼女は一度息を吐き、声を静めた。
「上弦の壱は、おそらく継国縁壱の双子の兄です。月の呼吸の使い手だった。四百年以上も生き延びている。相当の手練れでしょう。火憐さん。率直にお聞きしますが、上弦の壱には敵いますか?」
「私が参戦する事を前提に、複数人で当たれば必ず。上弦の参までは、私単身でもなんとか討てると判断しました」
火憐の答えを聞き、珠世はしばらく気配を窺った。火憐は、傲りや楽観的な思考からでは無く、冷静に判断をしていた。
「それなら、鬼舞辻無惨を殺せる可能性は十分にあります。薬学に関する貴女の発想、胡蝶さんの技術と、私の技術を組み合わせれば、必ず。そして、私はようやく殺してしまった家族に詫びる事が出来ます」
「珠世さん」
火憐は、自分より遥かに歳上の鬼を抱きしめた。
「私の血を飲んで⋯⋯何を見たのですか?」
「もう、殆ど忘れかけていた、家族の姿を⋯⋯。声を⋯⋯匂いを⋯⋯。鮮明に思い出させてくれた。ありがとう、火憐さん。お陰で私は、より強い思いを抱くことが出来ました。人として死にたい、と。例え、家族と同じ場所へ行けなくても⋯⋯もう絶対に人間を傷付けはしない、と」