第50章 珠世と愈史郎
「⋯⋯そうでしたか。もしかすると、私の身体は何かおかしな状態にあるのではと、以前から気になっていました。私は筋力や体躯に見合わない、高威力の技を連続して使用出来ます。肺が強いからだと思っていましたが⋯⋯」
「私の見通した限り、貴女の肺が特別強いのは事実です。心拍数も、体温も、常人離れしています。貴女は人間として、ご自身の能力を最大限引き出した上で⋯⋯そうですね。貴女の想定通り、貴女の技は血鬼術に近い部分もあるのです」
珠世の言葉に、火憐は俯いた。鬼に近い存在と言われても、善良な鬼を前に傷付く事すら出来なかった。鬼である事自体を否定したくは無かった。
火憐は感情を切り替え、荷物袋から綴じ本を取り出した。
「私がこれまでに服用した薬の処方が記してあります。これら全てを分解する薬を編み出せれば、鬼を人間に戻す事が可能ではありませんか? 内容は全て複写しておりますので、此方をお渡しします」
「貴女の発想は、四百年以上生きて来た私をも、凌駕する物でした。胡蝶さんから見せていただきましたが、分解される事を前提に毒を調合する事は思いつきませんでした。鬼舞辻無惨を弱体化させる為の毒を作る際、役立てるつもりです。貴女は思考や感情に蓋が出来る。ですから、私の過去についても、お話しておきましょう。今後も協力関係を維持する為に」
珠世の言葉に、火憐は頷いた。愈史郎は、純粋に驚いていた。これまで、珠世が人間に、自分の過去を語る姿を見たことが無かったからだ。信用している炭次郎や、最も重要な関係を築いている産屋敷にすら。
火憐は少し考え、口を開いた。冨岡を巻き込む事になるが、現状彼はそれ程鬼舞辻に危険視されていない。鬼が人間の思考を読めないのなら、問題ないだろう。
「分かりました。お聞かせください」