第49章 医術※
「水を持って来たぞ」
「ありがと⋯⋯は?」
仰天したのは、火憐だった。暖簾を掻き分ける様にして、人の顔がずらりと並んでいる。最早恐怖を感じた。
「大丈夫かい?」
女将が湯呑みを差し出し、火憐の額に触れて飛び上がった。
「あんた、凄い熱があるじゃないか!! 誰か医者はいないかい?!」
「はい」
火憐が手を挙げた。何の冗談かと、全員が脱力しそうになった。
「高熱は体質なので、気にしないでください。ただの湯当たりです。人に感染る類の物でも無いのでご安心を」
火憐は、随分ハッキリと意識を取り戻して答えた。
「あ!!!!」
野次馬の一人が大声を上げた。
「あんた、昼間のお嬢さんじゃないか!!! おい、本当に大丈夫か?!」
万屋の主人が駆け寄ろうとしたので、冨岡は思い切り首に手刀を叩き込んだ。
「冨岡さん!! 何をしているんですか?!」
「他人の嫁に近付こうとしたからだ」
「馬鹿ですか?! 普通の人にそんな事をしたら──」
「加減はした。その証拠に意識はある」
「そういう問題ではありません!!」
火憐は身体を起こし、駆け寄ろうとして、またふらりとその場に倒れた。
「お嬢さん、駄目だよ!! まだ横になっていないと!!」
女将が必死に宥めようとする手を、火憐は握った。
「すみません、ご迷惑をお掛けしました。少ししたら出ますので、そちらの男性を寝かせて置いてください。首の様子を診ますから」
彼女は水を一気に飲み干し、冨岡を睨んだ。
「男性を連れて出てください!!」
「分かった」
冨岡は、心なしか落ち込んだ様子で従った。火憐は女将に目を向けた。
「申し訳ございません。お騒がせしました」
「気にしないでおくれ。それより、あんたの旦那、大丈夫かい? その左腕はどうしたんだい? 明らかに普通の怪我じゃないだろう。まさか暴力を振るわれているんじゃ──」
「そんな事はしない人です。ちょっと⋯⋯いえ、かなり嫉妬深い人ですが。これは、治療の練習の為に、自分で付けた傷ですので」