第48章 心の炎※
「鬼舞辻無惨」
愈史郎は、禁句を口にした。冨岡はようやく警戒を解いた。愈史郎は火憐に掴みかかった。
「二度とあんな気色の悪い物を送ってくるな! 必要なのは血液だ!!」
「なら、次は鬼舞辻の髪でも引っこ抜いて来ましょうか? こっちは命懸けだったんですよ。血液よりも遺伝子の情報は多いと思うのですが」
「あれを調べる珠世様の身にもなれ!!」
「そんな事を言う為に、危険を冒して姿を見せたのですか?」
火憐は呆れた様子で、愈史郎の肩に手を置いた。恐らく彼の方が年上だが、見た目の年齢はそう変わらない。
「お前、あんな物をどうやって採取した?! 前回の血液も、だ!! 死ぬぞ!!」
「心配⋯⋯してくださっているのですか?」
「俺がじゃない! 珠世様が心配しているんだ!! お前、柱になったんだろう?! 相当強いんだろう?! 鬼舞辻を殺すには一晩刀を振り続ける必要がある!! お前が欠けたら、代わりはいるのか?!」
「愈史郎さん⋯⋯」
火憐は、胸を打たれた。言葉がキチンと通じる、優しい鬼に出会ったのは初めてだった。
「泣くんじゃねえ!! 先に用件を聞け!!」
愈史郎は、袖から木箱を取り出した。
「赤い方が、鬼の治療薬。青い方が、鬼を人間に戻す為の試薬。次はこれを取引に利用しろ。珠世様からの贈り物だ。感謝しろ!!」
「感謝します」
火憐は深く頭を下げ、思考した。今するべき事は、泣いたり、傷付いて叫ぶ事じゃない。
「貴方方は、鬼舞辻を殺す手助けをしてくださるのですよね?」
「それが珠世様の悲願だ」
「でしたら、私の持っている情報をお伝えしたいのですが、手紙や鴉は他人の手に渡る可能性があります。確か、愈史郎さんは、視覚を共有する血鬼術を使用できるのですよね? 私が紙に書いた文書を、私の目を通して読む事は出来ますか? 書き記した物はすぐに燃やします」
「炭次郎から訊いたのか」
愈史郎は、物凄く嫌そうな顔をしつつ、袖から紙の束を取り出した。
「この札を額に貼り付けろ。絶対に日光に当てるなよ」