第48章 心の炎※
「馬鹿者!! 大馬鹿者!! もうやめてくれ!!! 何故お前ばかりがこんな目に遭う?!」
冨岡は火憐の首に顔を埋めた。泣いている事が分かり、火憐は益々胸が痛くなった。
彼女の身に何が起きたのか、冨岡は分かってしまっただろう。しかし、その点について責めることは一切しなかった。
「もう止めろ!! 止めてくれ!! もう良い!! 鬼の首を斬れば、それで良い!!」
「ごめんなさ──」
「謝る必要も無い!!」
「火憐様! とにかく何処かでお休みにならないと!」
隠の近藤が、冨岡の手から火憐を奪い取った。
「何処へお連れしますか?!」
「近くの宿に⋯⋯。私は鬼の気配を纏っていますから、お屋敷に戻るのは危険です。貴女も気配を辿られる可能性がある。複数の隠を経由して、お館様に伝言をお願いします。明日には戻り、重要な件については、私の口から語る、と。私は自分で歩けます」
「承知いたしました」
近藤は一礼すると、素早くその場を去った。
火憐は自力で衣服を整えると、冨岡に顔を向けた。
「わざわざ迎えに来てくださって、ありがとうございます。もう大丈夫ですので、戻ってください」
「駄目だ」
冨岡は火憐を抱き寄せた。
「輝利哉殿に、お前を連れて戻れと命じられた」
「輝利哉様が⋯⋯」
火憐は少し驚いた。あの子供が、自分の意思で柱に命令を出したのだ。
「分かりました。近くの宿に泊まりましょう。私は一刻も早く身体を清めてしまいたい」
彼女はきちんと両足で立ち、歩き出した。迎えに来た冨岡の方が、手を引かれて歩く形になった。
「おい」
表通りに出る直前、声を掛けられて火憐は足を止めた。冨岡が抜刀しそうになったので、慌てて押さえ込み、吊り目の青年に向き合った。気配が鬼だが、攻撃して来る様子は無い。
「⋯⋯もしかして、貴方が愈史郎さん?」
「初対面で良く分かったな」
少年の姿をした鬼は、不機嫌そうに答えた。火憐は、今にも斬りかかろうとしている冨岡を振り返った。
「安心してください。産屋敷家と協力関係にある鬼です。胡蝶様と手を組んでいる、医者の珠世様のお仲間です。その証拠に──」