第48章 心の炎※
怒り、憎しみ、嫌悪が心の底の底に浮かんでいるのに、身体は火憐を守る為に反応した。徐々に愛液が溢れ、鬼舞辻を締め付ける。
「嫌!!」
火憐が達すると同時に、身体の中に嫌な感触が奔った。
(嫌だ!! 絶対に産みたくない!!)
「用は済んだ。もう良い」
鬼舞辻の冷酷な声と共に、琵琶の音が鳴り響き、火憐はゴミの様に硬い地面に放り出されていた。
早く衣服を整えなければと思いながらも、身体が動かなかった。童磨とはまた違い、鬼舞辻は火憐を完全に道具とみなしていた。
(嗚呼⋯⋯感情の糸が⋯⋯)
夜風に吹かれて、露出した肌が冷えて行くのと同時に、心が冷たくなって行った。感情を失ってしまえば、何も感じなくて済む。楽な方へと心が転がり落ちてしまいそうだ。
(心を⋯⋯燃やさないと)
不意に、鴉がすぐ側に舞い降りた。
「助けて⋯⋯。誰でも良いから⋯⋯柱を⋯⋯」
やっとの思いでそう伝えると、鴉は飛び去った。火憐は、そのまま目を閉じた。誰か通りかかるかもしれないが、もう、どうでも良かった。しかし、無意識の執念が火憐を突き動かした。
彼女は採血用の道具を取り出し、白濁の液を採取した。直ぐに猫が現れたので、それを託し、また目を閉じた。
半刻経った頃だろうか。誰かが悲痛な声で火憐の名を叫んでいた。
「宇那手!! 宇那手!!」
「火憐様!!」
強い呼び掛けに応じ、火憐は目を開いた。何時の間にか、羽織で身体が包まれていた。
「⋯⋯冨岡さん」
「何をしている?! 何があった!!」
「上弦の十二鬼月を、全員把握しました。他にも諸々⋯⋯。その代償を払わされて、心が壊れそうになっていた所です。貴方が来てくださって良かった。他の柱に、こんな姿を見せる訳には行きませんから」
「馬鹿者!!」
冨岡は、火憐を抱き起こし、怒鳴り付けた。
「お前の身体に見合う物など⋯⋯。何故こんな真似をする?!」
「鬼舞辻無惨は、貴方の命を保証しました。私が命に変えてでも守りたい物が、これしきの事で保証されるのなら、安い物です。今回は怪我も負っていませんし、身体も動きます。ですが⋯⋯少し心が痛くて⋯⋯」