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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第8章 三年目の涙


 蝶屋敷の外に出てすぐ、宇那手はその場に蹲った。

 冨岡が慌てて振り返ると、彼女は口元を覆い、大粒の涙を次々と溢していた。

「すみ⋯⋯ませ⋯⋯ん。すみません! 私を⋯⋯置いて⋯⋯先に⋯⋯」

「どうした?! 藤の毒のせいか?!」

「違い⋯⋯ます⋯⋯。私⋯⋯私⋯⋯」

 宇那手は、冨岡の両腕にしがみついた。

「本当に⋯⋯正しかったのでしょうか⋯⋯。だって⋯⋯鬼の禰豆子さんは⋯⋯人を喰いません!! 生きています!! 気配が⋯⋯。私⋯⋯私の父は⋯⋯呼び掛けに応えました!! 私が弱かったから!! 私⋯⋯私が⋯⋯父を抑え込めれば⋯⋯!! しかも、貴方に殺させてしまった!! そのせいで⋯⋯貴方は私のことも背負うことになって⋯⋯。父に⋯⋯母に⋯⋯貴方にどうお詫びをしたら良いのか!!」

「お前は何も悪くない」

 冨岡は、胡蝶からの忠告を敢えて無視し、宇那手の頭を胸に抱き込んだ。

「何も間違えていない。あの兄妹は、あくまで例外だ。鬼になった者が、生き残った家族の呼び掛けに応じる場面は何度か見たが、噛まずに堪えたのは、あの娘一人だ。お前は刀も持たずに、最善の選択をした」

「でも! 貴方に殺させてしまった!! 私が⋯⋯自分でやるべきことを⋯⋯っ⋯⋯せめて自分の手で殺すべきでした!!」

「いいや。あの時のお前は、まだ共喰いした鬼を斬る事は出来なかった。あれが最善だった」

 三年間、宇那手はろくに泣くことも無かった。何時も感情を押し殺し、鬼の首を落とすことのみを考えていた。生かす可能性について、共生する可能性について、否定し続けていた。

 それは、師範である冨岡の考えが反映された物だと思われていたが、救済の可能性を示された瞬間、罪悪感に心を壊される苦痛があったからだ。

「立て、火憐」

 冨岡は、無理矢理宇那手の体を引っ張った。

「お前は生きている。だから立てる」

「⋯⋯私は⋯⋯」

「お前はあの兄妹より遥かに強い!! さあ、立て!!」

 冨岡は、とうとう宇那手の胸倉を掴んで引っ張り上げた。
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