第47章 上弦集結
「長い話は嫌いかと思いまして。では、詳細に。堕姫は生前火に焼かれています。日の呼吸を使う炭次郎、炎及び水炎の呼吸を使用する私とは、非常に相性が悪かった。兄が幾ら制御していようとも、恐怖心を拭えなかった。加えて、此方の隊士五人の内、三人は毒に耐性があり、妓夫太郎の戦法⋯⋯血鎌の毒で弱らせてから、殺す方法が通用しなかったのです。単純に力量不足です。血鬼術頼りで、動きも鈍かった。まあ、それでももう一人の柱は片目を失明し、片腕を失い、他の三人の隊士も重症です」
「そうだろうな。堕姫が足手纏いであったことは、以前から気付いていた。人間の部分を多く残していた者から負けていく。化け物に近い人間が勝つのは当然だ」
上弦の鬼は、一斉に息を呑み火憐を見詰めた。鬼舞辻が人を評価したのは、初めての事だった。
「もう良い。私は上弦の鬼達に、最早期待をしていない」
「また、その様に悲しいことをおっしゃいなさる。俺が貴方様の期待に応えなかった時があったでしょうか」
童磨の言葉に、鬼舞辻は青筋を立てた。
「産屋敷一族を未だに葬っていない。青い彼岸花はどうした?」
「薬に毒を盛っていますよ」
火憐が、真顔で答えた。嘘では無かった。鬼にとっては毒となる成分を盛っている。彼女は元々感情や思考の制御が得意であったが、嘘に半分の真実を織り交ぜることで、考えが複雑になる様仕組んでおり、鬼舞辻も、見抜く事は出来なかった。
「保って半年でしょう。貴方方にとって、一番有利な、夜の長い季節に、まだ八歳の子供が当主となります。その時がまたと無い機会です。青い彼岸花については、以前申し上げた事に加えて、もう一つ。この国に自生する物は、一度根から抜き取ってしまえば、二度と生えません。もう、此方の可能性は捨てるべきです。それから、その調合では上手く行きません」
言い終わるや否や、琵琶の音が響き、火憐は鬼舞辻の隣にいた。彼は独自の処方を無言で火憐に見せた。
「思うに、芍薬を新たに追加し、牡丹を増やすべきですね」
彼女は買い付けたばかりの薬を机に置いた。
「芍薬?」
鬼舞辻は眉間に皺を寄せた。火憐は、特に恐る風も無く微笑んだ。