第45章 命の灯火
「はい。仲間がいますので」
火憐は優しく笑い、一礼して立ち上がった。
「お部屋を温め、湿度を上げて過ごしてください。毎日窺います」
「ありがとう」
産屋敷の声を聞きながら、火憐は部屋を後にした。廊下では、輝利哉が待ち受けていた。
「宇那手。お父上のご様子は?」
「落ち着いていらっしゃいます。当面心配ありませんよ」
「宇那手」
輝利哉は火憐の腰にぎゅっと抱き着いた。
「私にお父上の代わりが務まるでしょうか?」
「大丈夫ですよ。既にご立派な風格がおありです。皆が貴方に惹きつけられます。それに、柱は皆、貴方を助けるつもりです。勿論、私も」
「宇那手、泣いても良いでしょうか?」
「はい、勿論ですよ。私の前では、思う存分泣いてください」
火憐が答えると、輝利哉は押し殺した様な啜り泣きを漏らした。火憐は、震える小さな体を抱きしめ、頭を撫でてやった。まだ、母親に甘えたい年頃だろうに、この冬には屋敷の一切を背負う立場になるのだ。
「宇那手、私は⋯⋯私は長男だから⋯⋯独りで遺されるのでしょうか? この屋敷に⋯⋯独りで⋯⋯」
「お辛いですね。その分、輝利哉様は、歴代の当主よりも、隊士に寄り添える方になるかと思います。隊士の殆どは、鬼絡みの出来事で家族を亡くしています。貴方の口から発せられる”分かる”と言う言葉の重みが変わって来ます」
「分かりたく無かった!」
「私も、同じです。痛みや苦しみなど、知りたく無かった。ですが、今、産屋敷邸の皆様は貴方を守ろうと、知恵を働かせています。貴方の役割は、前を向いて歩く事。そして、出来るだけ長く、健康に生きる事です。必ず鬼舞辻を殺します。私の分も生きてください」