第43章 再来
「それでも、貴女の戦う姿は、彼らに良い影響を与えたはずです。貴女も最初から強かったわけじゃない。全てを教えて貰ったわけでもない。冨岡さんの背中を直向きに追い続けて、そして、追い越した。貴女の戦う姿が、竈門君たちの憧れになったんでは無いでしょうか?」
胡蝶は、カナエがかつてそうしてくれた様に、火憐の頭をわしわしと撫でた。
「宇髄さんが倒れている間に、上弦の十二鬼月と一人で対峙した貴女は、立派です。此処へ来るまで、泣き喚いたりしなかったのでしょう? 私は⋯⋯まあ同い年ですが、冨岡さんや、不死川さんは年上ですし、多少甘えたって許してくれますよ」
「本当⋯⋯ですか?」
火憐は眠そうな瞳で冨岡を見詰めた。
「私を⋯⋯頭が悪い、馬鹿な子だって思いませんか?」
「思わない。馬鹿ならとっくに死んでいる。鬼舞辻に殺されていたはずだ」
冨岡は断言し、ぐらりと傾いた火憐の身体を抱きとめた。
彼女は不死川に涙に濡れた顔を向けた。
「他の柱には内緒にしてください。眠って起きたら、また、ちゃんとしますから」
「ああ」
不死川が短く答えると、火憐は目を閉じて寝息を立て始めた。胡蝶はようやく肩の力を抜いた。
「良かった。この薬が効かないのでは、と思ったのですが」
「怪しい物では無いだろうな?」
過去の経験から冨岡が詰問すると、胡蝶は眉尻を下げて笑った。
「ただの睡眠薬です。最大量の三倍ですが。火憐さん、大人びていると思っていましたが、子供でいられる時間が少なかったのでしょうね。甘える事の出来る人間が出来て良かったです」
「それはテメェも同じだろうがァ。俺たち全員がそうだ」
不死川は腕組みをして、火憐を見下ろした。
「俺はかなり不安になったぜ。こんなんで柱が務まるのか?」
「務まっているじゃないですか」
胡蝶は優しく返した。
「上弦の十二鬼月を倒した。下の階級の子達を教え導いている。何よりお館様の相談相手になり、鬼舞辻と取り引きに成功している。お館様が、この子にだけ弱味を見せた様に、私たちの前だから、泣いてくれた。嬉しいじゃないですか。信用されているって」
「とにかくこいつを休ませる。部屋に案内しろ」
冨岡は命令口調で言い、火憐を横抱きにした。