第43章 再来
「私の血には、幾つか毒が含まれているので、鬼舞辻に提供する際、解毒剤の調合表も渡しました。恐らく奴が気付くことの無い絡繰も含めて」
火憐は素早く手を動かし、成分表を完成させた。
「これは、藤、水仙、彼岸花の毒を無効化する薬です。私の憶測なのですが、鬼舞辻を鬼にしたのは、青い薬を含んだ、白い彼岸花。彼岸花の毒性を抑えた上で、効能を上げた薬。それを分解する成分を取り入れました。そして、もし鬼舞辻がそれに気付き、私の毒を分解しようとした時、次の効能が現れる様にしました。日光を短時間克服できる代償として、月光を浴びれば、鬼としての特性を弱める効能です。朝顔の種子の毒を用いました」
「お一人で考えたのですか?」
胡蝶は、震える手で走り書きを取り、目を走らせた。火憐は、薬学に手を出してから、まだ半年も経っていない。調合は、裏の裏をかくもので、ほぼ完璧に近かった。
「上弦の鬼と戦って分かったのですが、私たちは敵の二手、三手先を読まなければ勝てません」
「宇髄さんから聞いたが、テメェは、全員戦闘不能になった状態で、二体を相手に互角以上の戦いをしたらしいじゃねぇか。お前一人でも倒せたと言ってたぜ」
「不可能では無かったと思っています。ですが、難しかった。二体の鬼の首を同時に胴体から切り離す必要があったので。宇髄さんが、一時的に筋肉で心臓の動きを止め、敵を欺いていなければ、私も大怪我を負っていたかもしれません。⋯⋯竈門君達が足手纏いであった事は否めませんが、私一人が強くなっても、鬼舞辻は倒せません。奴の攻撃を喰らうことは、即ち鬼に変貌する事ですので、優れた動体視力と、身体能力を持ち合わせた隊士の協力が不可欠です。堕姫にあの程度の絡繰があったので、恐らく鬼舞辻も首を落とす程度では死にません」
「まだ、柱は残っている。テメェ一人に戦わせようなんざ、誰も考えてネェよ」
不死川は、火憐の頭に手を置いた。彼女はニコリと笑った。
「はい。皆さんを頼りにしています。今回私が落ち着いて戦えたのも、宇髄さんがいてくださったからです。一人になった時は、やっぱり怖かったです」
邪気の無い笑みを前に不死川は言葉を失った。火憐は、かつての彼の弟と同じ様に、不死川への信頼を体現していた。